生成AIが業務の一部を担う──そんな未来はもはや想像ではなく、Salesforce Summer ’25リリースで現実になりつつあります。
今回のアップデートで注目すべきは、Agentforce 3.0をはじめとした「自律型AIエージェント」の実用化と、データ活用・業務連携の標準化が、ついに「現場で使える」段階に到達した点です。この記事では、開発者・管理者の視点でどの機能が進化し、なぜ注目すべきか実務でどう活用できるのか何から導入を始めればよいのかという疑問に答える形で、網羅的かつ実践的にSummer ’25の要点を解説していきます。
1. Agentforce 3.0 ― 「自律型AIエージェント」がいよいよ現場レベルへ
Agentforce 3.0は、単なるチャットボットの延長線ではありません。
Salesforce自身が“Self-Operating CRM”と呼ぶように、業務プロセスそのものを代行・提案・最適化するエージェント基盤として進化しています。
注目強化ポイント
項目 | 概要 |
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Testing Center | エージェントの回答精度を事前検証できるサンドボックス。プロンプトやデータの影響を可視化し、運用前に調整可能に。 |
Command Center | 全エージェントのKPI・稼働状況を一元把握。成功率、応答率、利用率などをダッシュボードで可視化。 |
MCP対応 | 外部サービスとの統合を標準プロトコルで実現。Slack、Box、Notionなどとの連携がコーディング不要に。 |
Telemetry強化 | 会話ログ・アクションをOpenTelemetry形式で出力可能。DatadogやSplunkと連携し、エージェントの観測性が向上。 |
Claude 3のセキュア統合 | ClaudeがSalesforceインフラ内でホスティングされ、機密データを扱う業界でも安心して活用可能に。 |
技術者/管理者にとっての実用ポイント
- ApexやFlowと連携可能
MCP経由で任意のアクションやApexクラスを起動可能。これにより、複雑な社内業務も自動実行できる。 - ノーコード運用と管理統制の両立
Studioでエージェントを設計 → Testing Centerで検証 → Command CenterでKPIモニタリング、という運用ループが完成。 - 開発リソースの最適化
Bot作成において「Prompt Engineer」「API設計者」「運用監視者」の役割が分担可能に。チームで回せるAI開発が実現。
事例:法務部門のAgentforce活用
- ユースケース
契約書レビューとSlack通知を自動化 - 構成
Box → Claudeによる要約 → Slack通知 → Flowによる承認起票 - 効果
レビュー時間 -50%、漏れゼロ、Slack上で承認完結
Agentforce3.0の詳しい内容を知りたい方はこちらをクリック
2. Einstein Copilot ― 会話体験から業務設計へと進化
Salesforceの「Copilot」構想は、ただのAIチャットでは終わりません。
Summer ’25では、Copilot Builderの柔軟性・応答精度・UI統合性が大きく強化され、会話体験そのものが業務の起点になる構造が整いました。
特に注目したいのは、「業務の言語化」をCopilotが橋渡しし、ユーザーと業務フローを自然言語でつなぐ役割を担うようになっている点です。
強化ポイントまとめ
項目 | 概要 |
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Copilot BuilderのUI強化 | 入出力の設計が視覚的に整理され、プロンプト制御・変数の流れをノーコードで管理可能に。業務ロジックとAI会話の橋渡しがしやすく。 |
ハイブリッドUIアクション | ユーザーがCopilotとの会話中に直接「承認」「提出」などのアクションボタンを実行できる。Slack連携もスムーズに。 |
複数データソース対応 | CopilotがData CloudやSales Cloudなどをまたいで情報を統合・回答。顧客単位での“まとめ回答”が可能に。 |
プロンプト監査ログ | 過去のやり取りと使用プロンプトの関係性を可視化。トラブル発生時も原因特定が容易に。 |
管理者/開発者のためのCopilot Tips
- Copilotを「業務入り口」として設計する
例:見積もり依頼 → 条件確認 → 製品一覧生成 → レコード作成 という流れを、Copilotで完結できるように設計。 - Promptの再利用と標準化
Copilot Builderでは、複数の業務フローに共通するプロンプトロジックをテンプレート化可能。再利用性が大幅に向上。 - Slack内Copilot活用
Slackに埋め込んだCopilotから見積作成や商談起票が可能に。Botとしてではなく“UIの一部”として動作する設計。
事例:営業現場でのCopilot活用
- ユースケース
営業支援AIとして「見積作成 → 承認 → 顧客送信」まで会話で操作 - 使用機能
Copilot Builder、Flow連携、承認アクション、Slack通知 - 効果
提案初動の平均対応時間が60分 → 15分に短縮。Sales Ops部門の介在も削減。
3. Data CloudとSlack連携 ― リアルタイム×会話ベースの業務変革
企業がAIを活用する上で避けて通れないのが、「信頼できるデータ基盤」と「現場で自然に使えるUI」です。
この2つを橋渡しする存在として、Data CloudとSlackの統合強化はSummer ’25で大きな注目を集めました。
Salesforceはこの分野で、リアルタイムデータを“今この瞬間”の判断に使うことを強く意識しており、Slackのワークスペース上でAIが「アクションを提案」し、「実行までつなぐ」流れが、かなり現実的になっています。
Summer ’25での主な強化点
項目 | 概要 |
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Data Cloud×Slack統合テンプレート | 顧客データに変化があった際、自動でSlackに通知し、適切なCopilotスレッドが開始される。 |
Zero-Copyアーキテクチャ | 外部データソースを複製せずにData Cloudに“接続”可能。Snowflakeなどとの統合が容易に。 |
スナップショットレイヤー | 顧客データの特定時点での状態を保存可能。分析・会話型AIの根拠にも使える。 |
GenAI向けデータグラフ最適化 | Data Cloud上でのデータ接続設計が、生成AIの応答性能を意識した構造にチューニング済。 |
管理者/開発者向け導入ポイント
- Slack通知とAI起動の組み合わせ
たとえば「顧客の契約更新30日前」という条件でSlack通知を出し、Copilotが“更新案内メールの草稿”まで提示できるような構成が可能。 - Data CloudをAIの“知識の土台”として設計する
エージェントやCopilotは、Data Cloudに接続されたレコードやセグメントをもとに回答・判断を行う。つまり、AIが正しく動くかどうかは、Data Cloudの設計にかかっている。 - フィールド部門との連携がカギに
Slack×Copilotで現場に“話しかける”ことができるようになった今、バックオフィスとの連携以上に現場フロントへのAI展開が重要になっている。
事例:カスタマーサクセス部門での活用
- ユースケース
解約リスク顧客に対してSlack通知&対話開始 - 構成
Data Cloud → セグメント検出 → Slack通知 → Copilotがヒアリング案内 - 効果
対応初動の平均時間が半減。定期リテンションの自動化にも貢献。
4. MuleSoftとFlow ― システム連携と自動化の“つなぎ役”が進化
生成AIやCopilot、Agentforceがいかに賢くなったとしても――
それだけでは業務は完結しません。なぜなら、AIが指示を出したとしても、実際に業務を実行するのは連携されたアクションや外部システムだからです。
そこで不可欠なのが、Salesforceの連携基盤である MuleSoft と業務自動化ツールの Flow。
Summer ’25では、この「つなぎ役」の性能が大きく強化されました。
Summer ’25での主な進化ポイント
項目 | 概要 |
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MuleSoft RPAの統合強化 | Legacyアプリとの連携や人手操作の自動化をより簡潔に。Salesforce画面上からBotを呼び出す設計も可能に。 |
FlowによるGenAI呼び出し機能 | LLM(例:Claude、Gemini)をFlowから直接呼び出し、文生成・要約・分類などを業務内で実行できるように。 |
再利用可能なFlowアクション | Flowの中で作成したロジックをモジュール化し、他のフローやエージェントにも転用できる構造へ。 |
MuleSoft Anypoint Code Builderの強化 | 開発者がより高速に統合処理を定義可能に。Salesforce以外のSaaS連携も視覚的に行える。 |
管理者/開発者向け実装視点
- エージェントやCopilotの“手足”として設計する
例:Copilotが「承認ワークフローを作成する」と発言したとき、実際に作成するのは裏側のFlow。CopilotとFlowをペアで設計することで、初めて「話すAI」が「動くAI」に変わる。 - MuleSoftでSaaS全体を橋渡しする
Salesforce外の人事管理/購買/文書管理などとの統合は、MuleSoft経由で処理。これにより、CopilotやAgentforceが“Salesforceの外”でも活躍できるようになる。 - Flowで“ノーコード自動化”をさらに加速
通知、分岐、判断、条件実行などをノーコードで制御可能。今やFlowは「GUIベースのプロセスエンジン」として機能する。
事例:業務自動化+AIの組み合わせ
- ユースケース
休眠顧客へメール提案 → AI生成 → 営業起票まで - 構成
Data Cloudで検出 → FlowでLLM呼び出し(提案文作成)→ MuleSoftでメール連携 → 商談作成 - 効果
自動化だけでなく“内容のパーソナライズ”も実現
5. Field ServiceとIndustry Cloud ― 業界別の深化と現場対応力の強化
Summer ’25では、業界・業種ごとに特化したソリューション群も大幅に進化しています。
特に注目すべきは、Field ServiceのAI強化と、Industry Cloud(金融・医療・公共など)の信頼性・柔軟性向上です。
これにより、“現場”でAIが活用されるシーンが格段に広がり、オフィス外や専門業務にAIを導入する現実性が高まりました。
Field Serviceの主なアップデート
項目 | 内容 |
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Einstein for Field Service | AIが作業予定・移動時間・顧客満足度を元に、最適な担当者とスケジュールを提案。 |
Asset Intelligence | 設備データから故障リスクやメンテナンス履歴をAIが予測・分析。 |
モバイルアプリの拡張 | 現場作業員がスマートフォン上でCopilotや手順ガイドを使えるように。 |
Slack連携 | 管理者と作業員がSlack上でリアルタイムに案件状況を共有し、問題への初動も迅速化。 |
Industry Cloudの注目ポイント
業界 | 主な強化内容 |
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金融(Financial Services Cloud) | AIによるリスク分析、KYC自動化、投資提案生成の品質が向上。 |
医療(Health Cloud) | Copilotによる診療履歴の要約、紹介状テンプレート生成。患者ごとの“次の最適アクション”を提示。 |
公共(Public Sector Solutions) | 住民対応AI、文書生成、プロンプト制御付きのFAQ自動回答機能などを搭載。信頼性の高いAI基盤構築へ。 |
現場導入のための視点
- 現場は“システム操作の余裕がない”場所
CopilotやAgentforceは、Slack・モバイル・音声で使えるようにしなければ意味がない。UI設計が命。 - 業界ごとの法規制・ガバナンスに対応可能に
SalesforceはTrust Layerやセキュリティレビュー機能の拡張によって、金融・医療でもAIを本番導入できる設計を進めている。 - 意思決定支援としてのAI活用
単なるチャットではなく、意思決定に必要な情報の整理・要約・提案までAIが担う形が理想。
事例:設備点検 × AI × Slack
- ユースケース
設備異常を予兆 → AIがSlackで対応提案 → 作業員に手順提示 → 修理完了報告までを自動記録 - 使用機能
Field Service + Copilot + Asset Intelligence + Slack - 効果
平均対応時間30%短縮、再発率低下、教育コストも削減
6. 今後の展望 ― AIと共に働く時代のSalesforce設計とは
Salesforce Summer ’25は、単なるバージョンアップにとどまりません。
今回のリリースは明らかに、「SalesforceのAI時代に向けた設計図の完成度が一段階進んだ」と言える内容でした。
今回のリリースで実感すべき3つの進化
- AIが“操作される存在”から“提案・実行する主体”へ進化
Agentforce 3.0やCopilotが、人間の作業補助ではなく、業務の一部を担う存在として設計されている点が明確に。 - データ・UI・連携の三位一体設計が整った
Data Cloud、Slack統合、MuleSoft/Flowといった基盤群が、AIと連動して“自然に使える”構造に洗練された。 - 業界・現場への本格導入が視野に入った
セキュリティ設計、業界クラウド、Trust Layerの拡張により、金融・医療・公共など“AI後進領域”でも導入可能に。
開発者・管理者が今考えるべきこと
- すべてのUIやフローに「会話エージェントで始まる可能性」を考慮する
- すべての業務データが「AIの判断材料になる」前提で整理する
- すべてのアクションに「AIが提案・実行できる余地」を持たせる
つまり、「AIに任せる余地を設計に埋め込む」ことが、今後のSalesforce設計において最大のテーマです。
7. まとめ
いかがでしたでしょうか。
AIがレコードを要約し、Slackで提案し、顧客と対話し、業務を進めていく時代。
Salesforce Summer ’25は、そうした未来の働き方を「今この瞬間」へと近づける強力な武器です。
私たちがやるべきことは、「AIに任せてよい部分」と「人が価値を出すべき部分」を見極め、
AIを活かすための問いと設計を磨いていくことかもしれません。
AgentforceやCopilot、そしてそれを支えるすべての基盤をどう活用するかは、まさに今、私たち自身に委ねられています。
8. お問い合わせ
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