皆さんこんにちは、Salesforceエンジニアの森川です。
今回はSalesforce CLI 上級編です。
中級編までのチュートリアル形式から一歩進み、本記事ではリファレンス・解説形式で Agentforce CLI 開発の全体像を俯瞰します。Salesforce CLI による Agentforce 開発は、2025 年 5 月の @salesforce/plugin-agent GA(一般提供)以降急速に成熟し、2026 年 3 月時点で 15 の CLI コマンド、Agent Script 言語、MCP 連携という包括的なプロコード開発基盤を形成しています。Anthropic Claude は 2025 年の Dreamforce で Salesforce のトラストバウンダリ内に完全統合された初の LLM プロバイダとなり、Agentforce 360 の基盤モデルとして位置づけられました。さらに Salesforce DX MCP Server の登場により、Claude Code や Cursor などの AI エージェント IDE から Salesforce CLI の操作を直接実行できる新しい開発パラダイムが確立されつつあります。
本記事では、中級編で体験した基本ワークフロー(エージェント作成→テスト→プレビュー、Claude Code + DX MCP、Agentforce Vibes)を前提知識とし、Agentforce CLI 開発の最新仕様、Claude 連携の実態、AI 支援による開発効率化の具体的手法を網羅的に解説します。
sf agent コマンド群の全 15 コマンドと開発ワークフロー
@salesforce/plugin-agent プラグイン(2026 年 3 月時点)は、Salesforce CLI の JIT(Just-In-Time)プラグインとして提供され、初回の sf agent コマンド実行時に自動インストールされる。親 CLI は @salesforce/cli v2.124.7 で、基盤ライブラリ @salesforce/agents v0.15.4 が動作を支える。
現在提供されている 15 コマンドは、大きく 4 つのカテゴリに分類できる。
エージェント作成系(agent create、agent generate agent-spec、agent generate authoring-bundle、agent generate template、agent generate test-spec)
ライフサイクル管理系(agent activate、agent deactivate、agent validate authoring-bundle、agent publish authoring-bundle、agent preview)
テスト系(agent test create、agent test list、agent test run、agent test resume、agent test results)
UI 連携(org open agent)
Spring ’26 で導入された Agent Script(ベータ)は、自然言語とプログラム的表現を組み合わせた新言語で、推奨ワークフローを大きく変えた。中級編で扱った agent create コマンドによる直接作成に代わり、以下の Agent Script ベースのフローが推奨される。
sf agent generate agent-specで YAML 仕様ファイルを生成(会社情報・ロール・トーンなどを指定)sf agent generate authoring-bundle --spec specs/agentSpec.yamlで Authoring Bundle を生成- VS Code で Agent Script ファイルを編集(専用拡張機能でシンタックスハイライト対応)
sf agent validate authoring-bundleで Org 検証sf agent publish authoring-bundleで Org に公開sf agent activateでエージェントを有効化sf agent previewで CLI 上の対話型プレビュー(--use-live-actionsで本番動作、デフォルトは AI シミュレーション)
agent generate agent-spec コマンドは特に多機能で、--type(customer/internal)、--role、--company-name、--company-website、--max-topics(デフォルト 5)、--tone(formal/casual/neutral)、--enrich-logs など豊富なフラグを備える。--full-interview フラグを使えば対話形式で全パラメータを入力できる。
テストフレームワークの CLI 統合と CI/CD パイプライン対応
Agentforce Testing Framework の CLI 統合は、AiEvaluationDefinition メタデータタイプを中心に構築されている。テストワークフローは明確な 5 ステップで構成される。
まず sf agent generate test-spec で対話形式の YAML テスト仕様を生成する。各テストケースには発話(Utterance)、期待トピック、期待アクション、期待結果(自然言語記述)を定義し、オプションでカスタム評価(特定の文字列・数値の検証)、会話履歴(コンテキストシミュレーション)、コンテキスト変数を追加できる。
sf agent test create --spec specs/testSpec.yaml で Org にテストをデプロイした後、sf agent test run --api-name Resort_Manager_Test で実行する。テストはデフォルトで非同期実行され、完了待ちには --wait フラグ(分単位)を使用する。結果フォーマットは --result-format で human、json、junit の 3 種から選択可能で、JUnit 出力は CI/CD ツールとの統合に最適 である。--verbose フラグを追加すれば、実行された Apex クラス、フロー、Salesforce オブジェクトなどの詳細な生成データを確認できる。
CI/CD パイプラインでの活用において重要なのは、AiEvaluationDefinition メタデータが sf project deploy start で通常のメタデータと同様にデプロイ可能であり、ソースコントロールでエージェントメタデータと並行管理できる点である。GitHub Actions では、JWT 認証→メタデータデプロイ→sf agent test run --wait 10 --result-format junit→テスト結果アーティファクト保存という自動化フローが構築できる。
Spring ’26 までのリリース変遷が示す進化の速度
Agentforce DX の進化速度は目覚ましい。Spring ’25 でベータ版として登場し、初期コマンド群(generate agent-spec、create、test create、test run、test resume)が導入された。わずか数ヶ月後の Summer ’25(2025 年 5 月 21 日)で @salesforce/plugin-agent が GA 到達を果たし、JIT プラグイン化、YAML ベースの仕様定義、VS Code/Code Builder 拡張機能サポートが整備された。
Winter ’26 では運用面が強化され、agent activate/deactivate コマンド、agent preview(CLI での対話型エージェントテスト)、--apex-debug フラグによる Apex Replay Debugger 連携、テストケースでのカスタム評価と会話履歴サポートが追加された。
そして Spring ’26(2026 年 2 月)で最も大きな転換点を迎えた。Agent Script 言語のベータ導入により、Authoring Bundle ワークフロー(generate→validate→publish)が確立。Agentforce Builder のキャンバスビューとスクリプトビュー、マネージドパッケージ用の agent generate template コマンド、シミュレーション/ライブの 2 つのプレビューモード、そして Agentforce DX MCP Server と Agentforce Grid(ベータ、スプレッドシート型テスト環境)が加わった。
Anthropic Claude との戦略的統合は 3 つのパターンで実現する
2025 年の Dreamforce で発表された Salesforce-Anthropic の拡大パートナーシップにより、Claude 統合は公式サポートされた 3 つのアーキテクチャパターンで利用可能になっている。中級編では開発者の 3 つの接点として概要を紹介したが、ここでは各パターンの技術的詳細と運用上の考慮点を掘り下げる。
パターン 1:Agentforce AWS-Hosted オプション。 Setup 画面の Agentforce Agents ページで「AWS-Hosted」を選択すると、Amazon Bedrock 上の Claude Sonnet 4 が Agentforce の推論エンジンとして動作する。「Salesforce Default」(GPT-4o を含むモデルミックス)との切り替えは管理者が行える。Anthropic はトラストバウンダリ内に完全統合された初の LLM プロバイダであり、データは Salesforce の VPC から出ることがなく、モデルトレーニングにも使用されない。
パターン 2:BYO LLM 経由のカスタム統合。 Einstein 1 Studio Model Builder で Amazon Bedrock プロバイダを選択し、AWS IAM クレデンシャルと Bedrock リージョンを設定することで、Claude 3.5 Sonnet などの任意の Claude モデルを Prompt Builder、Agentforce カスタムアクション、Models API、Apex から利用できる。BYO LLM モデル使用時は Salesforce マネージドモデルより 30% 少ない Einstein Requests を消費する コスト面の利点もある。設定手順は、AWS 側で IAM ユーザー作成と Bedrock InvokeModel 権限付与→ Salesforce Data Cloud の Einstein Studio で Foundation Model 追加→接続情報入力→ Model Playground でテスト→ Prompt Builder で利用、という流れである。
パターン 3:MCP(Model Context Protocol)による双方向統合。 Salesforce 公式の MCP サーバー(DX、Heroku Platform、MuleSoft)を通じて、Claude Desktop や Claude Code から直接 Salesforce のメタデータ操作やデプロイが可能になる。逆方向では、Slack の MCP サーバーを介して Claude 内から Salesforce CRM データや Tableau インサイトにアクセスできる。2026 年には Agentforce 360 extensions により、Claude 内から Salesforce ネイティブの Agentforce アクションを直接トリガーする機能も開発中である。
Claude Code と Salesforce DX MCP が生む新しい開発体験
Salesforce DX MCP Server(@salesforce/mcp、2025 年 5 月 30 日公開)は、AI エージェント IDE と Salesforce CLI の統合における最も重要な技術基盤である。中級編ではセットアップと基本操作を扱ったが、ここでは運用レベルの活用パターンとコミュニティフレームワークを紹介する。
CLAUDE.md アプローチの実践
中級編で触れた CLAUDE.md によるルール定義は、上級者の運用ではより精緻なガバナンスツールとなる。プロジェクトルートに配置した CLAUDE.md に、命名規則、デプロイ制約、コーディングパターンを定義し、Claude Code にメタデータの取得→フィールドや Picklist 値の存在検証→フロー・Apex・バリデーションルール生成→デプロイまでを一気通貫で実行させる。ガバナンスとして、AI 生成メタデータは Developer Sandbox または Scratch Org へのデプロイのみ許可し、本番環境への直接デプロイは禁止するのがベストプラクティスである。
コミュニティフレームワークの活用
コミュニティフレームワークも充実しており、salesforce-claude-framework(GitHub: ehebert7)は Apex ベストプラクティス(バルク化、CRUD/FLS 強制)を組み込んだカスタムエージェントとスキルを提供し、sf-skills(GitHub: Jaganpro)は 14 のスキルと 420 以上の検証ポイント、LSP 統合、リアルタイムクエリプラン分析を含む包括的なスキルセットを提供している。
AI 支援による Apex 開発・テスト・デバッグの実践的手法
AI 支援開発において最も重要な原則は、AI を「ジュニアデベロッパー」として扱うことである。ガバナーリミット準拠、CRUD/FLS セキュリティ、null チェック、適切な例外処理の確認は必ず人間がレビューする必要がある。上級者が特に注意すべきハルシネーションのパターンとしては、誤った API バージョンでのメタデータ生成(例:API 62 で追加されたフィールドを API 58 の Org にデプロイするコードを生成)、存在しないカスタム設定やカスタムメタデータタイプへの参照、Platform Event の公開制限を超えるトリガー設計、Data Cloud オブジェクトへの直接 SOQL(実際には Connect API が必要)などが挙げられる。
テスト自動生成のツールチェーン内での位置づけ
中級編で Agentforce Vibes の /test コマンドによるテスト生成を実践したが、上級者の運用では リクエスト制限との戦略的な付き合い方 が鍵となる。Pro モデルは 1 日 50 リクエスト/Org の上限があり、複雑なクラスでは 1 回のテスト生成で 2〜3 リクエストを消費する。そのため、Vibes の /test はビジネスロジックが複雑なクラス(カスタム料金計算、コンプライアンスチェック等)に集中投下し、CRUD 中心のシンプルなクラスのテストは Claude Code + DX MCP の run_apex_test と組み合わせたスクリプトベースの生成に回すのが効率的である。
デバッグ支援の自動化
GitHub Actions と Ollama を組み合わせた自動デバッグログ解析も注目されている。ワークフロー内で Salesforce からデバッグログを取得し、ローカルホストの Mistral モデル(Ollama 経由)で解析することで、エラー検出、パフォーマンスボトルネック、ガバナーリミットリスク、アンチパターン(SOQL/DML のループ内実行)を自動識別する。データが GitHub Actions ランナーから外部に出ないため、プライバシー保護の観点でも優れている。
CI/CD パイプラインにおける AI レビューの統合
claude-code-action(anthropics/claude-code-action GitHub Action)による PR 自動レビューが最も実用的である。PR のオープン・更新時に自動レビューが走り、@claude メンションでオンデマンドレビュー、/security-review コマンドでセキュリティ監査も実行できる。Salesforce Code Analyzer(run-code-analyzer GitHub Action v2)との組み合わせにより、静的解析+ AI 意味解析のダブルチェック体制が構築可能である。
最適な AI ツールチェーンの構成
現時点で最も効果的な Salesforce/Agentforce 開発向け AI ツールチェーンは、複数ツールのレイヤード構成である。Org 認識型コード生成とテスト生成には Salesforce 公式の Agentforce Vibes、プロジェクト全体のコンテキストを活かしたメタデータ操作とデプロイワークフローには Claude Code + Salesforce DX MCP、高速なインライン補完には GitHub Copilot + Salesforce カスタムスキル、静的解析には Salesforce Code Analyzer + ApexGuru、CI/CD での AI 活用には Claude GitHub Action + Code Analyzer Action という組み合わせが推奨される。
GitHub Copilot を使う場合、.github/skills/ フォルダに Salesforce 専用のスキルファイル(apex-patterns.md、soql-optimization.md、lwc-guide.md、agentforce-ai.md など 9 つの参照ファイル)を配置し、バルク化・ガバナーリミット・with sharing・Trigger→Handler→Service→Selector パターンなどの規約を強制する設定が効果的である。
まとめ
Salesforce CLI Agentforce 開発は、Agent Script による宣言的開発の深化、Anthropic Claude のトラストバウンダリ内統合、MCP 標準による AI エージェント IDE 連携 という 3 つの潮流が交差する転換点にある。特筆すべきは、これらが個別の技術ではなく相互に連携する点である。Agent Script ファイルを Claude Code + DX MCP で生成・編集し、CLI でバリデーション→パブリッシュ→テスト実行→ JUnit 出力を CI/CD パイプラインに統合し、そのパイプライン内で claude-code-action が PR レビューを自動実行するという、エンドツーエンドの AI 支援開発フローが現実的に構築可能になっている。
ただし、AI ハルシネーションのリスク管理(Sandbox/Scratch Org 限定デプロイ、人間レビュー必須)、EU Operating Zone での一部機能制限、Einstein Requests 消費の最適化(BYO LLM で 30% 削減)など、実運用における考慮点は依然として重要である。Agentforce Grid(ベータ)によるスプレッドシート型テストや Agentforce 360 extensions の Claude 内統合など、2026 年後半に向けた進化も含め、この領域は今後も急速に発展を続ける見込みである。
本記事は三部作の上級編として、AI エージェント開発の実践的な応用を深掘りしました。
初級編 では、CLI の基本操作と GUI との使い分け、最初に覚えるべき 11 コマンド、Claude Code によるコマンド生成の入口を学びました。sf コマンドの基礎体力がここで身につきます。
中級編 では、Agentforce DX で初めてのエージェントを作成し、Claude Code + DX MCP のセットアップと Agentforce Vibes の Plan / Act / Deep Planning モードを実践しました。上級編で扱う高度なトピックの前提となる、AI 支援開発の基本ワークフローがここで身につきます。
上級編(本記事) では、Agent Script 言語と Authoring Bundle による宣言的エージェント開発、plugin-agent の全 15 コマンド体系、Anthropic Claude の BYO LLM 統合パターンと MCP 双方向連携、CI/CD パイプラインへの AI レビュー統合までを扱いました。CLI を「メタデータ操作ツール」から「AI エージェント開発の戦略的プラットフォーム」へ昇華させる知識が、ここで揃います。
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