Agentforce時代のSalesforce管理者は、何を「管理」する仕事になるのか

Agentforce時代のSalesforce管理者は、何を「管理」する仕事になるのか

Salesforceは2024年後半からAIエージェント機能「Agentforce(エージェントフォース)」を相次いで発表し、2025年のDreamforceでは“エージェンティック・エンタープライズ”という新ビジョンを掲げた。一般に「AIエージェント」や「デジタルAIアシスタント」と呼ばれるこれらの機能は、生成AIと自動化を組み合わせて業務を実行する。しかし、AIが自律的に意思決定を行うかのように見えるため、「AIに仕事を奪われるのでは?」と心配する管理者も少なくない。実際にはSalesforceが繰り返し説明しているように、AIは判断ではなく人間の指示を高速に実行するデジタル労働者として設計されており、AIが勝手に組織設定を変更することはない。“人間中心の設計”に基づき、常に管理者の権限と確認が前提となる。つまり本当に変わるのは単純作業の量ではなく、責任の質である。本記事では、Agentforce登場によりSalesforce管理者の仕事がどのように変わるのか、必要とされるスキルや責任を整理する。

1. Agentforceは「管理者を不要にする」のか?

上のイラストはAIエージェントとデータネットワークを象徴的に表したもので、記事のテーマを視覚的に補強するために掲載している。画像の内容を説明するaltテキストを設定しており、スクリーンリーダーなど支援技術を利用する読者にも意味が伝わる。

AIによる自動化=管理者不要ではない。多くの専門家はAIは人を置き換えるのではなく人を補助する存在だと強調している。Salesforceのプレスリリースでも、Agentforceはチャットボットとは異なり、文脈とビジネスデータを理解して最適なアクションを選択する“デジタル労働者”と位置付けられており、意思決定の最終責任は人間にある。調査でもAIエージェントが誤った判断をした場合の責任は「導入を決定した人が負うべき」と考える企業が最多であり、AIに全権を任せることへの抵抗感は根強い。

最新機能であるSetup with Agentforce(Spring ’26ベータ)は、管理者が自然言語で「ユーザーAのパスワードをリセットして」「Leadオブジェクトに項目を追加して」と指示すると、AIが背後で手順を実行してくれる機能だ。しかしこの機能は管理者の権限を尊重し、設定変更は常に人間が承認してから適用される。Salesforce Adminsブログでも「AIはあなたのセットアップ作業を高速化する“共同管理者”であり、クリックを減らして上流の設計に集中する時間を生む」と説明している。実際、Agentforceがないと成り立たないわけではなく、AIは管理者の仕事を支援し責任を軽減する存在である。

2. これまでのSalesforce管理者の役割

Agentforce登場前、管理者の役割は主に“設定者”だった。具体的には次のような業務がある:

  • 権限とユーザー管理:ユーザーが扱える機能やデータ範囲を決める「プロファイル」「権限セット」「共有ルール」を適切に設定し、最小権限の原則を守る。
  • データ構造の管理:標準・カスタムオブジェクトや項目を作成し、データモデルを整備する。入力規則や参照関係、レコードタイプなどを定義して正しいデータを蓄積する。
  • フロー・自動化の設計:ワークフローやプロセスビルダーは2025年以降廃止予定で、管理者はローコードツール「Flow」によってレコード作成や更新、条件分岐、繰り返し処理などを視覚的に構築してきた。
  • 運用保守と監査:変更セットやDX Inspectorを使って環境間の設定差分を管理し、エラーが起きないようテストを行う。ログや監査証跡を確認し、不正なアクセスや誤設定を防ぐ。

これらの仕事はデータ・設定・権限を正しく構成し、安定運用することがゴールだった。そのため多くの管理者は、画面上で手を動かして設定を追加・変更する技能を重視してきた。

3. Agentforce時代に変わる「管理」の意味

Agentforce時代において、管理対象は“設定”から“振る舞い”へシフトする。低コードメディアの記事は、Agentforceでは管理者が従来の項目追加やフロー作成だけでなく、AIエージェントの役割を定義し、知識ソースを登録し、実行アクションやガードレールを設計し、振る舞いを監視することが求められると指摘している。つまり「何をAIにやらせ、何を人間がやるべきか」という境界線を明確に引き、AIが危険な操作を実行しないよう止める設計を行うことが管理の中心になる。

またData Cloud Governanceの導入により、管理者はユーザーに加えてデジタルエージェントにもデータアクセス権を設定し、機微情報をマスクし、目的外使用を防ぐポリシーを運用する責任を担う。Agentforce ObservabilityやTesting Centerはエージェントのエラー率や応答時間、命令の逸脱をモニタリングし、ガードレール違反時にはアラートを送る。このように、管理者はAIの振る舞い・効果測定・制御を行う“環境設計者・AIガバナンス担当”へと進化する。

4. 管理者が新しく担う3つの責任

① データの前提条件を整える責任

AIエージェントの品質はデータ次第である。低コードメディアは「AIが誤るのではなく前提が壊れている」と述べ、KnowledgeやCase、顧客データの品質を高めることが新しい管理者の使命だと強調している。Salesforceの調査でもITリーダーの約半数が自社のデータ基盤がAIに対応できていないと認めており、データを構造化しガバナンスを施さなければAI導入は失敗に終わる。

具体的には次のような取り組みが必要だ:

  • Data Cloudでのデータ統合・クレンジング:顧客データ、非構造データ、ログなどをData Cloudに統合し、重複や欠損を解消する。Data Cloud GovernanceにはAIタグ付けと分類機能があり、個人情報やGDPRデータなどを自動で識別しラベル付けすることで下流アプリが適切に扱える。
  • データポリシーの制定:アクセス権ポリシー、マスキングポリシー、データ目的ポリシーを設定し、Agentforceや他アプリがデータを閲覧・操作する範囲を制御する。動的データマスク機能では機密フィールドをユーザーやエージェントの権限に応じて自動的に隠すことができる。
  • データ品質モニタリング:Agentforce ObservabilityやService AI Adoption & Analyticsダッシュボードを使い、AIが参照するデータの利用率や成果指標(平均応答時間・解決率など)を監視し、品質問題を特定する。

これらの仕組みを整備しないままAIを導入すると誤回答や予期せぬ漏洩を招き、管理者が責任を問われる。逆に、データの前提条件を整えることでAIエージェントは正確に動作し、信頼できるパートナーとなる。

② 業務ルールを構造として定義する責任

AIエージェントは曖昧な指示やルールが苦手である。低コードメディアの記事は「曖昧な業務はAgentも迷う」と指摘し、業務ルールや例外処理を構造化して定義することが管理者の役割だと述べている。これには以下が含まれる:

  • Flowや条件分岐の明確化:従来Flowを設計していた経験を活かし、Agentforce for Flowを用いて記述したプロセスをAIに引き継ぐ。Spring ’26で一般提供されたAgentforce for Flowでは、自然言語で業務要件を入力するとAIがレコードトリガフローや画面フローのドラフトを生成する。ただし生成後のフローをレビューし、例外時の処理や分岐を人間が補完する必要がある。
  • Agent ScriptやCanvasによる行動設計:Agentforce 2.0からはプロコード言語「Agent Script」が登場し、管理者はAIエージェントのブループリントを厳格に記述できる。Spring ’26のCanvas Viewはドラッグ&ドロップでトピックやアクション、エスカレーション経路を視覚的に接続できるようになった。こうしたツールにより、管理者はAIの振る舞いを決定論的に定義し、意図しない行動を防止する。
  • エスカレーションと人間の介入ポイント設計:FlowとAIを組み合わせる場合、いつAIに任せ、いつ人間が対応するかの境界を設計することが重要だ。Agentforceをフロー分岐に使う際、誤判定に備えて手動承認ステップや例外処理を加える必要があると管理者向けブログは指摘している。

AIエージェントを使うにはルール・条件・分岐を明文化し、AIが迷わない道筋を作ることが不可欠である。

③ ガバナンスと制御の責任

AI導入に伴い、管理者は新たなガバナンス機構を担う。Salesforce Data Cloud Governanceは、個人情報や機密データに対してAIタグ付け、ポリシーベースのガバナンス、データスペース分離、動的データマスクを提供し、Agentforceが扱えるデータを厳格に管理する。また、MuleSoftのAPI管理やモデルコンテキストプロトコル(MCP)により、AIエージェントが外部システムと安全に対話できる。

さらに、Agentforce Testing Centerでは本番環境へリリースする前にエージェントの挙動をサンドボックス環境でシミュレーションできる。Agentforce Observabilityはセッションログを収集し、エラー率、応答時間、逸脱度などの指標を可視化し、ガバナンス担当者が改善ポイントを特定できる。Salesforce Adminsブログでは、管理者はセキュリティチームや法務部門と協力し、AI導入の信頼性を確保する必要があると予測している。

TrailheadのAIガバナンスモジュールも、AI使用の棚卸し、データフローの把握、責任の所在の明確化を推奨しており、管理者は組織におけるAIの全体像を把握する“司令塔”となるべきだ。ガバナンスを怠ると、AIの誤用や偏りが原因で評判やコンプライアンスリスクが拡大する危険がある。

5. 管理者に求められるスキルはどう変わるか

Agentforce時代には、これまでの「設定力」から「設計力」へとスキルセットが変わる。具体的には次のような能力が求められる:

  1. データと分析の知識:2026年から管理者試験の配点では“Data & Analytics Management”が最も重視され、従来より重みが増えた。AIを活用するにはデータ基盤と指標への理解が必須であり、システム構造やデータモデルを把握する力が求められる。
  2. プロンプト設計と自然言語操作:Agentforce BuilderやSetup with Agentforceでは自然言語による指示が中心となる。低コードメディアの記事でも、管理者はエージェントに入力するプロンプトを設計し、応答の質を改善するスキルが必要だと述べている。Qiita記事によるとAgentforce Specialist試験の30%がプロンプト設計に割かれている。
  3. プログラミングとメタデータ理解:Agent ScriptやCanvas、MCPツールなど、新しい開発手法が登場している。これらはローコードではあるが、データ型やAPI、オブジェクト構造などの理解が必要である。2026年の管理者ロードマップでは、AIの支援によりライトニングWebコンポーネントやApexクラスにも挑戦しやすくなると予想されている。
  4. ガバナンスと倫理の知識:AIガバナンスの原則、データプライバシー、説明責任について理解し、組織内のステークホルダー(セキュリティ・法務・業務部門)と協働する力が求められる。AIが差別や偏見を生み出さないよう配慮し、Trust Layerやポリシーに基づいた設定を運用できることが重要である。
  5. プロダクトマネジメント思考:Business+ITの解説では、管理者は従来のシステム管理に加え「プロダクトマネジメント」を担うようになると述べている。Setup Powered by Agentforceにより単純な設定作業が減少するため、業務要件を深掘りし、AI導入の効果測定や改善サイクルを回す戦略的役割が求められる。はAI導入の失敗原因としてデータ品質やプロセス理解不足、ユーザー採用の難しさを挙げており、管理者がこれら課題を解決する“プロダクトオーナー”となる必要がある。

6. 「AIがいるから楽になる」ではない理由

Agentforceの導入は、短期的には管理コストを増大させる可能性がある。フロンティア社の調査では、AIエージェント導入後に「指示や管理にかかる時間が増えた」と回答した教育分野の利用者が多く、AI運用に習熟するまで負荷が大きいことを示している。Salesforce Benの記事も、AgentforceとVibe‑codingの普及により技術的負債が積み上がる危険を指摘し、データ整備を怠ってAIに依存すると組織全体の問題が拡大すると警告している。

またAIエージェントの判断が誤った場合、問題が大規模に拡散する恐れがあり、管理者の責任はむしろ重くなる。Data Cloud GovernanceやTrust Layerでは機密データのマスキングやゼロデータ保持などの保護機能が提供されているが、運用を誤れば漏えいやバイアスを生む危険がある。加えて、AI導入初期にはデータクレンジングやルール定義などの準備作業が必須であり、これまで以上に多くのステークホルダーと調整する必要がある。

つまり、「AIがいるから楽になる」と捉えるのではなく、新しい専門性が求められ、責任が増える側面があることを理解しておく必要がある。

7. これからのSalesforce管理者が目指すべき姿

将来の管理者像は、AIを恐れる役割ではなく、AIを安全かつ効果的に活用させる専門職である。Salesforce Admin Podcastの2026年ロードマップで、エバンジェリストのKate Lessardは「管理者はセキュリティや法務など他部門と協力して信頼あるAI実装を推進する必要がある」と述べた。同じくPodcastでJoshua Birkは、「Setup powered by AgentforceやAgentforce Vibesを活用し、バックエンド業務をAIで加速しつつ、人間はより価値の高い業務に注力できる」と語っている。

具体的なアクションとして次のようなことが挙げられる:

  • AIパートナーとしてのマインドセット:AIを同僚とみなし、エージェントの成果と課題を定期的にレビューして改善する文化を醸成する。低コードメディアはAIを「チームの一員」として迎え入れることの重要性を強調している。
  • データガバナンスの徹底と政策策定:Data Cloud Governance機能を活用し、組織内データの分類・マスキング・アクセス制御を厳格に行う。外部データソースとの連携にはMuleSoftやMCPを通じて安全性を確保する。
  • 継続的学習と資格取得:Salesforceは2025年からAI Associate試験を廃止し、Agentforce Specialist認定に一本化した。試験ではプロンプト設計(30%)やAgentforceの概念(30%)、Data Cloud連携(20%)、Service CloudやSales Cloud連携が評価される。早期に学習を始め、TrailheadやAgentforce NOWなどの無料プログラムでスキルを磨くべきである。
  • 業務改善とプロダクト思考:単に設定をこなすだけでなく、業務部門の要件を深掘りし、AIによる自動化が本当に価値を生むかを検証する。Business+ITの記事は、管理者がプロダクトマネージャーとしてAI導入のROIを測定し、データクレンジングやユーザー教育も含めた総合的な施策を担う必要があると指摘している。

8. まとめ

Agentforceは管理者を置き換えるものではない。むしろ設定作業を自動化してくれることで、管理者はデータ統合、業務設計、AIガバナンスといったより上流の価値創造に集中できるようになる。新たに求められるのは、データ品質を整える力、業務ルールを構造化してAIに伝える力、AIの振る舞いをモニタリング・制御する力、そして倫理とガバナンスの視点である。

AIエージェントは強力な味方だが、準備不足のまま導入すればリスクも大きい。管理者は今からデータの整理、プロセスの明確化、ガバナンス体制の構築に取り組み、Agentforce時代に価値を発揮できる専門家へと進化する必要がある。人間が舵取りを行い、AIエージェントが作業を加速する未来に向けて、Salesforce管理者は“環境設計者・AIガバナンス担当”として新たな役割を担うのである。

9. よくある質問(FAQ)

AgentforceやAIエージェントの導入について、管理者から寄せられる代表的な疑問に答えます。疑問に応えることで検索意図の幅を広げ、生成AIによる要約にも対応しやすい構成としています。

Agentforce導入前に準備すべきことは?

Agentforceを導入する前に、まずデータの整理とガバナンスを行うことが重要です。具体的には、Data Cloudで顧客データや非構造データを統合し、重複や欠損を解消します。Data Cloud GovernanceにはAIタグ付け機能があり、個人情報やGDPR対象データを自動でラベル付けできます。さらに、アクセス権やマスキングポリシーを設定し、AIエージェントが閲覧・編集できる範囲を制御します。準備段階でデータの品質とガバナンスを整えることで、AIの精度が高まり誤作動やコンプライアンスリスクを防ぐことができます。

Agentforceを使うと管理者は不要になるのですか?

いいえ。AgentforceはチャットボットやRPAとは異なり、人間の指示を補助するデジタル労働者であり、最終的な判断は管理者が行いますsalesforce.com。Setup with Agentforceのような機能は設定作業を自動化しますが、実行前に人間の承認が必要です。多くの企業も、AIエージェントが誤った判断をした場合の責任は導入を決めた人が負うべきと考えています。したがって、AIは管理者の仕事を補助し、より上流の設計やガバナンスに集中する時間を生み出す存在です。

データ品質を高めるためにはどうすればよいですか?

AIは入力されたデータの品質に大きく依存します。低コードメディアが指摘するように「AIが誤るのではなく前提が壊れている」ため、Data Cloudで重複排除や標準化を行い、KnowledgeやCaseに登録するナレッジ記事やFAQを定期的に更新することが必要です。また、Agentforce Observabilityやデータ品質ダッシュボードを活用し、AIが参照するデータの利用率や精度をモニタリングして改善点を特定します。

AIガバナンスはどう実施すべきですか?

AIガバナンスにはポリシー策定と監査が不可欠です。Data Cloud Governanceを利用すると、AIタグ付けやポリシーベースのアクセス制御、データスペースの分離、動的データマスクにより、機密情報をAIエージェントから保護できます。MuleSoftやModel Context Protocolを使うことで外部システムとの連携も安全に管理できます。また、Agentforce Testing Centerでリリース前にエージェントの挙動を検証し、Agentforce Observabilityでエラー率や応答時間を監視することが推奨されています。さらに、TrailheadモジュールはAI使用の棚卸しや責任の明確化を求めており、管理者はセキュリティ・法務部門と協力してガバナンスフレームワークを構築すべきです。

Agentforce Specialist認定試験では何が問われますか?

SalesforceはAI Associate試験を2026年から廃止し、Agentforce Specialistに一本化しました。試験では、プロンプト設計(約30%)、Agentforceの概念(約30%)、Data Cloudとの統合(約20%)、Service CloudおよびSales Cloudとの連携(合計20%)が問われます。低コードツールやAgent Scriptを理解し、ガードレールやデータガバナンスを適切に設定する能力が求められます。

お問い合わせ

現在Salesforceを効果的に活用できていない企業様や、これからSalesforceの導入を検討している企業様で、設定や運用、保守に関するサポートが必要な場合は、ぜひお気軽にご相談くださいませ!

    お問い合わせ目的

    Salesforceカテゴリの最新記事