「AIをどう使うか」では、もう足りない。これから企業に問われるのは、**「AIとどう働くか」**。
Salesforce Spring ’26 リリースは、新機能を追加するためのアップデートではない。AIを“便利な道具”として扱う時代に終止符を打ち、AIが業務の主体として働く組織像を、実際のプロダクトとして示したリリースである。AIが判断し、人がそれを補完する。業務は人とAIの役割分担を前提に再設計される。
こうした変化は、遠い未来の話ではない。Spring ’26 では、データ、AIエージェント、検索、運用管理、セキュリティまでが一体となり、今すぐ業務に組み込める形で提示されている。
本記事では、Spring ’26 リリースを通して、企業はAIとどのように向き合い、どのような組織へ変わっていくべきかを読み解いていく。
- 1. はじめに ― Spring ’26 が示す転換点
- 2. Spring ’26 リリースとは ― 背景とAI戦略の位置づけ
- 3. リリース全体の3つの柱
- 4. AIの自律推進 ― 業務を担う主体としてのAI
- 5. Sales Workspace ― 人とAIが同じ文脈で働く営業基盤
- 6. Agentforce Builder ― AIエージェントを設計・運用する中核基盤
- 7. Two-Way E-mail ― メールを業務プロセスに組み込む
- 8. Agentic Enterprise Search ― 検索を行動の起点に変える
- 9. Command Center ― AIを安心して任せるための管理拠点
- 10. Native GIS ― 現場判断を支える位置情報の統合
- 11. Shield強化 ― AI時代のセキュリティと統制
- 12. 各機能の効果 ― 業務別ユースケース
- 13. まとめ ― Spring ’26 が企業にもたらす価値
- 14. よくある質問(FAQ)
- 15. お問い合わせ
はじめに ― Spring ’26 が示す転換点
Salesforce Spring ’26 リリースは、単なる新機能追加ではなく、企業におけるAI活用の前提そのものを大きく書き換えるアップデートである。これまでAIは、人が行う業務を効率化するための補助的な存在として使われてきた。レコメンドや要約、チャット対応といった形で、人の判断を支える役割が中心だったと言える。
しかし Spring ’26 でSalesforceが明確に示したのは、まったく異なる企業像だ。
AIが主体的に業務を担い、人はその判断を監督・補完する側に回る
Salesforceはこの考え方を**「エージェンティック エンタープライズ」**と呼んでいる。これは、AIが指示待ちで動く存在ではなく、業務の文脈を理解し、自ら判断し、次の行動を起こす主体になるという発想である。
ここで重要なのは、この考え方が理想論や未来像として語られているわけではないという点だ。Spring ’26 リリースは、この構想を前提条件として、実際のプロダクト設計そのものを組み替えている。この変化は、単にツールが進化したという話ではない。業務設計やデータ整備の考え方そのものを見直し、AIと人が役割分担しながら働く組織へ移行できるかどうか。それが、今後の競争力を左右する重要なテーマとなっている。
特に大規模組織や複数部門を持つ企業ほど、「人がすべて判断する前提」には限界が見え始めている。Spring ’26 は、そうした現実に対するSalesforceなりの一つの答えだと言える。本記事では、Spring ’26 リリース全体を俯瞰しながら、その狙いと意味を整理し、企業や管理者、開発者がどのように向き合うべきかを解説していく。
Spring ’26 リリースとは ― 背景とAI戦略の位置づけ
Spring ’26 リリースは、Salesforceがこれまで段階的に進めてきたAI戦略を、一つの完成形へと近づける位置づけのアップデートである。単発の新機能や部分的な改善ではなく、AIを業務の中心に据えるための思想と仕組みを、製品全体に横断的に組み込んでいる点が大きな特徴だ。
Salesforceは近年、生成AIやAIエージェントに関する機能を継続的に拡張してきた。しかしそれらはあくまで「人が使うAI」という位置づけが強く、業務判断の主体は常に人にあった。Spring ’26 では、この前提が明確に見直されている。
AIが自ら考え、次の行動を提案・実行することを前提とした設計
へと、大きく踏み込んでいるのだ。
背景には、人手不足の深刻化、業務の高度化、顧客体験への期待値の上昇といった環境変化がある。複数のシステムやデータが絡み合う現代の業務において、人がすべてを把握し続けることは現実的ではなくなってきている。Salesforceはこの課題に対し、「AIを補助的に使う」のではなく、**「AIと役割分担して業務を進める」**という解決策を提示している。
Spring ’26 は、AIが判断するためのデータ構造、行動を起こすための検索や自動化、人がAIの振る舞いを把握・制御する管理機能を一体として設計した点にこそ価値がある。つまり本リリースは、SalesforceのAI戦略において**「実験段階から実運用段階へ移行する転換点」**なのである。
リリース全体の3つの柱
Spring ’26 リリースの内容は多岐にわたるが、全体を俯瞰すると次の三つの柱に整理できる。
- AIの自律推進
- データの統合と検索の進化
- モバイル・現場対応の強化
これらは個別の機能追加ではなく、相互に連携することでエージェンティック エンタープライズを成立させる基盤として設計されている。
三つの柱には明確な依存関係がある。AIが自律的に判断するためには、整理されたデータと検索基盤が必要であり、それらを活かすには現場業務への自然な組み込みが欠かせない。Spring ’26 では、この流れを断ち切らないよう設計思想が統一されている。どれか一つだけを導入しても効果は限定的であり、三つの柱すべてを組み合わせて初めて、AIが業務の主体として機能し始めるのである。
AIの自律推進 ― 業務を担う主体としてのAI
Spring ’26 リリースにおける最大の特徴は、AIを単なる支援ツールではなく、業務を担う主体として位置づけている点にある。これまでのAI活用では、業務の主語は常に人であり、AIは判断を助ける補助的な存在だった。人が状況を把握し、判断し、行動するという流れの中で、AIは参考情報を提示する役割にとどまっていたのである。
しかし Spring ’26 では、この前提そのものが見直されている。AIが業務の文脈を理解し、状況を整理したうえで、次に取るべき行動を提示することを前提とした設計が、プロダクト全体に貫かれている。人はその判断の妥当性を確認し、必要に応じて補完や修正を行う立場へと役割が変化する。
この変化は、単に自動化を増やすという話ではない。すべてをAIに任せるのではなく、AIの判断は可視化され、人が介入できる余地が最初から設計に組み込まれている点が重要である。Spring ’26 におけるAIの自律推進は、業務を置き換えるための取り組みではなく、人とAIの役割分担を再定義し、業務全体の流れをより前に進めるための設計思想なのである。
Sales Workspace ― 人とAIが同じ文脈で働く営業基盤
Sales Workspace は、Spring ’26 におけるAI強化機能の中でも、人とAIの協働を最も分かりやすく体現する機能である。従来の営業支援ツールでは、担当者が情報を集め、商談状況を整理し、次に取るべき行動を自ら考える必要があった。AIは、その作業を部分的に支援する存在に過ぎなかった。
Spring ’26 の Sales Workspace では、この関係性が明確に変わっている。営業担当者が日常的に利用する画面の中にAIが自然に組み込まれ、顧客情報の整理、商談状況の把握、次に取るべきアクションの提案といった作業を、AIが文脈を理解したうえで主体的に行う設計となっている。
ここで重要なのは、AI専用の画面を新たに用意していない点である。既存の営業フローの中にAIを溶け込ませることで、営業担当者は「AIを使う」という意識すら持たずに業務を進められる。その結果、情報整理に追われる時間が減り、顧客との対話や提案内容の質といった、本来注力すべき業務に集中できるようになる。Sales Workspace は、AIを追加する機能ではなく、営業チームの一員として機能させるための基盤だと言える。
Agentforce Builder ― AIエージェントを設計・運用する中核基盤
Agentforce Builder は、Spring ’26 においてAIの自律推進を支える設計と運用の中核を担う基盤である。これまでAIは、あらかじめ決められた振る舞いを実行する存在として扱われ、業務に合わせて柔軟に設計・改善することは容易ではなかった。
Agentforce Builder では、この前提が根本から見直されている。どの業務をAIに任せるのか、どのデータを参照させるのか、どこまでの判断を許可するのかといった内容を明示的に定義し、運用しながら継続的に調整していくことが前提となっている。これにより、AIエージェントは「作って終わり」の存在ではなく、業務に合わせて育てていく存在となる。
また、AIの判断や行動を確認し、必要に応じて修正できる仕組みが用意されている点も重要だ。AIはブラックボックス化された存在ではなく、業務ルールを持ったシステムの一部として扱えるようになる。Agentforce Builder は、AIを便利な機能として導入するためのツールではなく、企業の業務基盤として定着させるための設計・運用・改善を支える土台なのである。
Two-Way E-mail ― メールを業務プロセスに組み込む
Two-Way E-mail は、メールを単なる文章のやり取りではなく、業務プロセスの一部として再定義する機能である。従来のメール対応では、内容の把握、状況の判断、返信文の作成といった一連の流れをすべて人が担うことが前提だった。AIは文面の下書きを支援する程度にとどまり、対応全体を主導する存在ではなかった。
Spring ’26 の Two-Way E-mail では、この役割分担が見直されている。AIがメールの文脈を理解し、対応内容や次のアクションを提示することで、メールは単なるコミュニケーション手段ではなく、業務の起点となる情報源として扱われるようになる。人は最終確認や例外対応に集中でき、即時性や一貫性が求められる対応をAIが担うことで、業務全体の安定性が高まる。
Two-Way E-mail は、メール対応を効率化するための機能ではない。メールを業務フローの中に組み込み、AIと人が役割分担するための基盤として位置づけられている。
Agentic Enterprise Search ― 検索を行動の起点に変える
Agentic Enterprise Search は、Spring ’26 におけるデータ活用の思想を最も象徴的に表す機能である。従来の検索は、必要な情報を見つけ出すこと自体が目的であり、検索結果をどう解釈し、どのように行動するかは常に人の判断に委ねられていた。
Spring ’26 では、この前提が大きく変わる。AIが検索結果を文脈として理解し、次に取るべき行動までを含めて提示することで、検索はゴールではなく、業務を前に進めるための起点として機能するようになる。人は情報収集に時間を費やすのではなく、判断や意思決定といった付加価値の高い作業に集中できる。
Agentic Enterprise Search は、データを探しやすくするための機能ではない。データを活用して業務を動かすための基盤なのである。
Command Center ― AIを安心して任せるための管理拠点
Command Center は、AI活用を実験段階から実運用へと引き上げるための統合管理拠点である。AIが業務を担う割合が増えるほど、現場や管理者には「AIは何を判断しているのか」「想定外の動きをしていないか」といった不安が生まれやすくなる。
Command Center では、AIエージェントの稼働状況や実行された判断、アクションの流れを一元的に把握できる。これにより、AIは見えない存在ではなく、管理・改善の対象として扱えるようになる。単なる監視にとどまらず、AIの判断傾向を分析し、業務フローや設定の改善につなげられる点が重要だ。
Command Center は、AIを止めるための仕組みではない。AIを安全に、そして継続的に業務で使い続けるための運用とガバナンスの基盤として機能する。
Native GIS ― 現場判断を支える位置情報の統合
Native GIS は、地理情報をSalesforceにネイティブ統合することで、現場業務における判断の質を高めるための基盤である。これまで位置情報は外部ツールや別システムで管理されることが多く、顧客情報や案件情報と分断された形で扱われてきた。その結果、情報は存在していても活用されず、現場判断が担当者の経験や勘に依存しやすい状況が生まれていた。
Native GIS によって、顧客情報、案件情報、位置情報を同じ文脈・同じ画面で扱えるようになる。営業、フィールドサービス、物流など、現場性の高い業務では、拠点との距離、周辺環境、移動コストといった要素が判断に大きく影響する。これらを直感的に把握できることで、属人的な判断に頼らず、データに基づいた意思決定が可能になる。Native GIS は単に地図を表示する機能ではなく、現場判断をデータとして扱い、AIが理解・活用できる形に変換するための基盤だと言える。
Shield強化 ― AI時代のセキュリティと統制
Shield強化は、Spring ’26 においてAI活用を実運用に耐えるものにするための、重要な要素の一つである。AIが業務を担う割合が増えるほど、企業には「その判断は妥当だったのか」「誰がどこまで責任を持つのか」といった新たな問いが生じる。従来のセキュリティや監査の考え方だけでは、こうした問いに十分に答えることは難しい。
Spring ’26 の Shield 強化では、人の操作やアクセスだけでなく、AIの判断や実行されたアクションも明確な監査対象として扱われる。これにより、判断の履歴を追跡し、問題があった場合の事後検証や改善につなげることが可能になる。Shield 強化は、AI活用を制限するための仕組みではない。AIを安心して業務に組み込み、継続的に活用していくための前提条件として、セキュリティと統制の在り方を再定義しているのである。
各機能の効果 ― 業務別ユースケース
Spring ’26 の価値は、個々の機能の新しさではなく、実際の業務の中でどのように機能するかにある。ここでは代表的な業務領域ごとに、その効果を整理する。
営業の現場では、AIが顧客状況や商談履歴を整理し、次に取るべきアクションを提示することで、担当者は提案内容の検討や顧客との対話に集中できる。サービスやサポートの領域では、初動対応をAIが担い、人は例外対応や判断が必要なケースに注力できるため、対応品質のばらつきが減り、顧客体験の安定化につながる。
物流や現場業務では、位置情報と業務データを組み合わせることで、状況に応じた判断を支援できるようになる。属人化しがちな現場判断を、再現可能な業務プロセスとして整理できる点は大きい。金融や規制産業においては、AI活用と統制を両立しながら、判断の透明性を確保した運用が可能になる。
まとめ ― Spring ’26 が企業にもたらす価値
Spring ’26 リリースは、SalesforceにおけるAI活用を**「試す段階」から「業務に根付かせる段階」へ引き上げる転換点**である。重要なのは、新機能の数や派手さではなく、AIが判断するための基盤、人がそれを管理・補完する仕組み、そして現場で自然に使える体験が、一貫した思想のもとに設計されている点にある。
企業に問われているのは、AIを導入するかどうかではなく、
AIとどう働く組織になるのか
という問いである。Spring ’26 は、その問いに向き合うための現実的な選択肢を提示している。業務設計やデータ整備に取り組み、AIと人が役割分担しながら働く組織こそが、エージェンティック エンタープライズへの一歩を踏み出していくことになるだろう。
よくある質問(FAQ)
Q1. Spring ’26 リリースで最も大きな変化は何ですか?
A1: 最大の変化は、AI が業務の主体となる「エージェンティック エンタープライズ」へのシフトです。Sales Workspace や Agentic Enterprise Search により、AI は情報を集めて次のアクションを提案し、Proactive Service や Agentic Order Routing が問題や欠品を事前に検知して対応します。人はこれらの判断を監督・補完する役割に回り、より高度な判断や対人対応に専念できます。
Q2. Agentforce Builder と Agentic Setup の違いは?
A2: Agentforce Builder は AI エージェントを設計・育成・管理するためのプラットフォームで、行動範囲やガードレールを設定し、業務に合わせてエージェントをチューニングします。一方、Agentic Setup & Data Management は Data 360 と連携してデータパイプラインの整備や接続を自然言語で支援する機能で、AI が活用するデータ基盤を構築します。両者を組み合わせることで、正しいデータを用いた安全な AI エージェントの運用が可能になります。
Q3. Spring ’26 導入時に企業が準備すべきことは?
A3: まず、自社の業務プロセスとデータの現状を棚卸しし、AI が参照できるようにデータ品質と統合を強化します。また、どの業務を AI に任せるか、どこで人が介入すべきかというガバナンスの方針を明確にし、従業員へ教育やトレーニングを行いましょう。Agentforce Voice や Voice to Form など音声機能を使う場合は、現場の環境やセキュリティポリシーとの整合性も確認が必要です。
Q4. Spring ’26 以降、Salesforce 管理者の役割はどう変わりますか?
A4: 管理者は設定作業から「AI エージェントとデータの設計者・運用者」へと役割が広がります。具体的には、データの整備・統合、ガードレールや権限の設計、AI の監査ログの確認、ユーザー教育が重要になります。Setup with Agentforce や My Trust Center、Shield Experience Enhancements などを活用しながら、AI と人が安全に協働できる環境づくりを進めてください。
Q5. Spring ’26 に関する詳細情報や関連リソースはどこで得られますか?
A5: Salesforce 公式サイトのリリースノートや Trailhead モジュールに加え、CRM.org や Salesforce Ben、Cyntexa などのブログで Spring ’26 の詳細やユースケースが紹介されています。また、弊社サイトでは 「Salesforce 管理者の役割変化」 や 「Agentforce 時代のガバナンス」 など関連する記事を公開しているので、合わせてご覧ください。内部リンクを活用することで、読者はスムーズに関連トピックへアクセスできます。
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