Salesforce Spring ’26リリースでは、各業界の深いドメイン知識を備えた「バーティカルAI」の爆発的な拡充と、SLA管理・アンケート機能・HRサービスの大幅な強化が実現しました。本記事では、金融・ヘルスケア・公共・教育・製造・消費財・非営利団体における業界特化型AIの活用シナリオから、SLA・Survey・HR機能の詳細、導入のベストプラクティスまで網羅的に解説します。
- 1. はじめに:業界特化型AIと管理機能の両面革新
- 2. 金融サービス:Financial Services Cloudによる「信頼」の自動化
- 3. ヘルスケア:Health Cloudが実現する「ケアの精度」
- 4. 公共セクター:行政サービスの近代化
- 5. 教育:学生支援の完全自律化
- 6. 製造・自動車・消費財:資産ライフサイクルと現場実行力
- 7. 非営利団体:寄付者体験の向上
- 8. Experience Cloud・Commerce:デジタル接点の進化
- 9. SLA管理の強化:マイルストーンの柔軟な制御
- 10. アンケート機能の強化:回答率向上とブランド一貫性
- 11. HRサービスの強化:統一ライセンスと機密保護
- 12. 共通プラットフォームの進化
- 13. まとめ:専門家AIと管理機能の両輪で組織を強化
- 14. お問い合わせ
はじめに:業界特化型AIと管理機能の両面革新
Spring ’26の最大の柱は、各業界の規制要件やドメイン知識をあらかじめ学習・統合した「業界別Agentforce(バーティカルAI)」の拡充です。企業はAIを一からカスタマイズする手間を省き、自社のビジネスドメインに最適化された自律型エージェントを即座に配備できます。これにより、複雑な業務プロセスの自動化と高度なパーソナライゼーションが同時に実現します。
同時に、サービス部門が長年抱えてきた「SLA管理」「アンケート機能」「人事業務における権限や機密保持」といった課題に対しても、多数の革新的な機能が追加されました。
金融サービス:Financial Services Cloudによる「信頼」の自動化
金融業界において、AIエージェントは厳格な本人確認と複雑な取引を完遂する「自律したバンカー」へと進化しました。
銀行顧客向け自律型サポート
銀行向けの新しいエージェントテンプレートは、音声、WhatsApp、サードパーティWebサイトを介して24時間365日のサポートを提供します。機密性の高い口座情報にアクセスする際、エージェントは音声によるOTP(ワンタイムパスワード)検証を自律的に実行し、顧客の身元を安全に確認します。
標準トピックとして、住所更新リクエスト、残高照会、カードの一時ロック管理に加え、口座間振替が提供されます。特定の取引に関連する不当な手数料の払い戻しを、AIが取引内容を特定し規定に基づいて自動処理することも可能です。この機能を利用するには、Industry Service ExcellenceやOmnistudio Userなどの権限セット、およびData Cloudのセットアップが必要です。
資産管理アドバイザー支援
ウェルスアドバイザー向けのマネージドパッケージにより、会議の準備から事後処理までの事務作業がAIによって劇的に削減されます。会議直前に、AIが財務詳細、ポートフォリオパフォーマンス、財務目標の進捗をリアルタイムで要約します。会議後にメモを入力するだけで、AIが「新しい財務目標」や「結婚・出産などのライフイベント」を自動抽出し、Salesforceのレコードを作成します。
柔軟な階層管理
Flexible Hierarchiesにより、法人顧客や複雑なエンティティ構造を持つ顧客の多層的な組織階層を視覚的にマッピングし、法的な資本構造や販売ネットワーク、信用リスクの連鎖を多角的に把握できます。コンプライアンスの強化と拡大機会の特定を支援します。
ヘルスケア:Health Cloudが実現する「ケアの精度」
Document AI for Health
従来のインテリジェント文書処理が刷新され、PDFやJPG、PNGなどの多様な医療文書に対し独自の抽出テンプレートを作成できます。各抽出フィールドには「信頼スコア」が付与され、スコアが低い項目のみを人間がレビューする運用が可能です。抽出プレイグラウンドでサンプルファイルをアップロードして結果をプレビューし、プロンプトを微調整できる検証環境が提供されます。
現場ケアと疾病監視の強化
通信環境が不安定な患者宅でも、Field Serviceモバイルアプリでオフラインのままアセスメントデータを収集し、データの整合性を維持できます。Disease Surveillance Analyticsアプリにより感染症のトレンド視覚化やアウトブレイクの予兆検知、入院率・死亡率のモニタリングが可能です。athenahealthとの連携により、電子健康記録(EHR)からHealth Cloudへ直接患者レコードをリアルタイムで書き戻せます。
公共セクター:行政サービスの近代化
採用と候補者マッチング
Agentforce Skill Matchingにより、採用担当者は特定のスキルセットや専門分野、居住地域に基づいて最適な候補者を特定できます。AIが候補者のショートリストを作成し、応募を促す招待メールを自動送信することで、採用プロセスのリードタイムを短縮します。
住民向け手数料徴収のデジタル化
Inbound Payments機能により、住民は行政ポータルからライセンス申請などの手数料を直接支払えるようになりました。Experience CloudサイトにStripeやAdyenなどの決済ゲートウェイを埋め込み、支払状況と申請レコードをリアルタイムで紐付けます。手数料の再計算や紛争が発生した際は、Recompute APIを使用して正または負の調整を行い、請求書やクレジットメモを自動生成します。
行政のポリシーマニュアルをData Cloudにインジェストすることで、住民が必要なライセンスや許可証についてAIが正確に回答し、不備のある申請が提出される割合を大幅に減らせます。
教育:学生支援の完全自律化
単位認定と編入評価の自動化
Transfer Credit Agentにより、入学希望者はエージェントに対し以前の学習内容を伝えるだけで、どの単位が認定されるかの概算を即座に得られます。推定されたデータはそのまま正式な認定リクエストとして提出でき、大学側の審査プロセスを劇的に加速させます。
学生はチャットを通じて残高確認、授業料の内訳照会、特定の手数料に関する詳細な説明を求めることが可能です。需要の高いコースについてExperience Cloudサイトから直接待機リストに参加し、空席が出た際に自動通知を受け取れます。
製造・自動車・消費財:資産ライフサイクルと現場実行力
製造業向けセールスコンシェルジュ
Industries Sales Conciergeにより、営業担当者は自然言語で複雑な製品や部品を検索し、標準価格表からの価格取得や最適な代理店の特定を迅速に行えます。AIが下取りリクエストの開始や査定記録の生成、メールのドラフト作成までを完結させます。
自動車金融と車両査定
Funding Workbenchにより、ローン契約後にディーラーがアップロードした書類を資金調達アナリストが一箇所でレビューできます。不足書類がある場合は即座にディーラーポータルへタスクを割り当て可能です。経済的な事情で支払いの猶予を希望する顧客に対し、エージェントが適格性チェックを行いガイド付きフォームで手続きを迅速に完了させます。
製品サンプル管理
Sample Management機能により、製品サンプルの依頼から履行、フィードバック収集までのライフサイクルを一元管理できます。カスタムサンプルの依頼についてもAIが文書から要件を抽出・自動入力します。
店舗訪問アシスタント
Consumer Goods Cloudでは、Retail Execution Visit Assistantによりフィールドスタッフは過去の訪問記録や注文データに基づいたAIインサイトをリアルタイムで受け取ります。在庫切れ分析の結果に基づき店舗オーナーに対する最適な提案内容をAIが作成します。音声入力(Speech-to-Text)を使用してメモ作成、調査データ入力、注文更新を行え、デバイスの操作に煩わされることなく正確なデータをSalesforceへ反映できます。
非営利団体:寄付者体験の向上
Donor Support Agent(Beta)により、寄付者はExperience Cloudサイト上のエージェントを通じて、定期寄付の金額変更や支払い頻度の調整、寄付の休止などを自分で行えるようになります。団体のスタッフは個別の事務対応から解放され、より重要な関係構築に専念できます。
AIエージェントがスキル、場所、可用性に基づいて最適なボランティアを未充足のシフトへ自動的にマッチングさせます。リクルーターは候補者のショートリストを即座に確認し連絡を取ることが可能です。
Experience Cloud・Commerce:デジタル接点の進化
生成エンジン最適化(GEO)
Generative Engine Optimizationにより、公開サイトの情報をChatGPTなどのAI検索エンジンが正確に理解し正しい回答として引用できるようサイト構成を最適化します。GEOを有効化することでAIボットがページの「コンテンツスナップショット」を要求でき、検索結果としての発見可能性が飛躍的に高まります。
ユーザー体験のパーソナライズ
Pending Taskバナーにより、ログイン後に署名待ち書類や未完了のアセスメントなど「今すべきこと」をホーム画面最上部に自動掲示します。パーソナライズされたアクティビティタイムラインにより、ログイン履歴、メッセージ、Web検索、ケースステータスを一元化し、顧客が「前回どこまで進めたか」を瞬時に把握できます。
予測可能なAI課金モデル
Session-Based Trackingにより、AIによるナレッジの要約やQ&A機能の利用料を、個別の呼び出し回数ではなく認証済みセッション単位で集計・課金できるようになりました。1セッション内で何度質問を繰り返してもコスト予測が容易になります。
自律型コマース
B2B取引において、Request a Quote機能によりバイヤーがカートから直接「見積依頼」を発行できるようになりました。営業チームは詳細を確認後、バイヤーに代わって注文を確定でき、交渉から成約までのサイクルが短縮されます。Sell Configurable Products機能により、バイヤーがセルフサービスで製品オプション(メモリ容量や素材など)を構成し、リアルタイムの価格変動を確認しながら購入や見積依頼を行えます。検索およびフィルタリング可能な項目数が最大100件まで拡大されました。
SLA管理の強化:マイルストーンの柔軟な制御
ルールベースの自動一時停止
SLAの中核をなすマイルストーンに「ルールベースの一時停止」機能が追加されました。ケースや作業指示のステータスが「顧客待ち」「検証中」など特定の条件に該当したとき自動でマイルストーンが一時停止し、条件が変わると自動的に再開します。一時停止中はマイルストーンの残り時間が消費されないため、担当者は正確なSLA遵守状況を把握でき業務のボトルネックを特定しやすくなります。
この機能はSLAポリシーに紐づくマイルストーン単位で設定でき、「顧客からの応答を待つ間はレポート対象から除外する」「特定のカスタムステータスの場合に停止する」といった複数の条件を定義できます。停止期間に応じて目標日を再計算する仕組みも用意されています。
双方向のマイルストーン表示
親レコードと子レコード間でマイルストーンの達成状況を相互に表示できるようになりました。複数のチームやベンダーが関与する複雑な案件でも全体のSLA状況が把握しやすくなり、担当領域の連携や責任共有が促進されます。修理作業を下請け業者に依頼する場合でも、依頼元は子作業の進捗をリアルタイムで監視できます。
この機能はSLAポリシーにチェックボックス一つで設定でき、影響の範囲は親子階層全体に及びます。複数レベルの子ケースを持つ場合でも、親からすべてのマイルストーンの状態を一覧できます。結果として、「誰がどの期日を守るのか」の混乱が解消され、SLA達成率を高めることが期待されます。
Agentforce SLA Summary
案件全体のSLA遵守状況を可視化し、各マイルストーンの進捗や違反件数、応答時間の平均、個別レコードのリスク状態などを一覧表示します。SLA違反の傾向を時系列で分析する機能や、SLAに近づくレコードを自動抽出する機能が用意されています。既存のダッシュボードコンポーネントとして導入でき、Service CloudやExperience Cloudの画面に簡単に組み込めます。エージェントごとの対応件数や平均解決時間、複数のマイルストーンを跨ぐ案件のパフォーマンス比較など、人事評価やプロセス改善につなげやすいデータが提供されます。
SLA導入時のベストプラクティス
SLA機能を強化したい企業は、まず既存のプロセスとSLAポリシーを棚卸しすることが重要です。新しいルールベースのマイルストーン一時停止は柔軟性が高いため、停止条件を設定しすぎると逆にSLA遵守が曖昧になる恐れがあります。停止理由を明文化し、担当者が一目で理解できるようにしておきましょう。また、マイルストーン再開の条件が複雑になる場合はSalesforceフローや数式を用いて自動制御すると良いでしょう。
アンケート機能の強化:回答率向上とブランド一貫性
マトリクス質問ビューの改良
複数の質問項目を一覧形式で回答する「マトリクス質問」が見やすく回答しやすい新しい表示形式に刷新されました。各質問に対してドロップダウンメニューが表示され、長文の質問も省略されることなく表示されます。スマートフォンやタブレットなど画面幅が狭いデバイスでも直感的に回答できます。
部分保存期間の大幅延長
従来15日間だった部分回答の保存期間を、1日から最大999日まで設定可能になりました。年次調査など長期にわたるアンケートでも途中保存した回答を引き継いで完了でき、回答率の向上が期待されます。ユーザー認証の有無にかかわらず途中回答の保存が可能になり、匿名ユーザーや外部リンクからアクセスしたユーザーでも次回アクセス時に続きから回答できます。
カスタムCSSでブランドイメージを反映
フォントや色、レイアウト、余白、アイコンサイズなどを自由に調整し、企業ロゴやブランドカラーに沿ったデザインのアンケートを作成できます。アンケートごとに個別に設定でき、部門や用途に応じたテーマ展開も簡単です。製品ロゴやブランドカラーを使用したアンケートは正式なコミュニケーションであることを示し、フィッシングやスパムと疑われるリスクを減らします。
アンケート設計の最適化
アンケートの成功は設問設計と回答しやすいインターフェースの両方が鍵を握ります。設問数が多い場合はページ分割やセクション分けを活用し、途中保存機能と組み合わせて離脱率を低減しましょう。部分保存データの分析により、どの質問で離脱が多いかを把握し、設問の順序や表現を改善できます。
Generative AIや自然言語処理を活用すると、自由記述の回答を自動的にクラスタリングしたり感情スコアリングを付与することも可能です。AIが主題や改善要望を抽出しサマリーやインサイトを提示することで、担当者は重要な課題やニーズをすばやく認識できます。
HRサービスの強化:統一ライセンスと機密保護
Unified Employee License(UEL)
既存の権限や機能が一つのライセンスに統合されました。従業員向けのサービスライセンスやHR Serviceの限定ライセンスを個別に付与する必要がなくなり、管理が大幅に簡素化されます。マネージャープロビジョニング機能やAgentforceの標準アクションが含まれており、組織全体で統一された権限管理を実現します。
従業員情報の更新や組織図の閲覧、休暇申請の承認といったセルフサービス機能を標準で備えており、従業員自身が自分のデータを管理しやすくなります。使用状況や権限利用履歴を一元的に把握できるため、監査対応やコンプライアンスの観点からも優位性があります。
UELを導入する際は、既存のユーザーライセンスと機能の重複を精査しましょう。ライセンス統合によるコストメリットが期待できる一方、HR Service以外の機能を利用するユーザーには別途ライセンスが必要な場合があります。
機密性の高いケース報告機能
Confidential Case Reportingにより、ハラスメントやコンプライアンス違反など、従業員がセンシティブな問題を報告する場面で匿名性と安全性を確保します。報告すると自動的に機密フラグが付与され、アクセス権のある人事担当者だけが閲覧・対応できます。AIがハラスメントや差別の兆候を検出しフォローすべき事案を優先的に振り分けます。
報告フォームには必要以上に個人情報を含めないよう定型フィールドを設け、振り分けルールを定期的に見直しましょう。
共通プラットフォームの進化
ビジネスルールエンジン(BRE)の拡張
決定テーブルの処理能力が劇的に向上し、API呼び出し制限は1時間あたり45万回から200万回へ、処理可能な行数は最大200万行から2,000万行へと10倍に増強されました。グローバル企業による数千万通りの価格判定やリスクスコアリングも遅延なく実行可能です。
データ処理エンジン(DPE)のデバッグ革新
大規模なデータ変換フローの構築中に「データプレビュー」を生成できるようになりました。入力変数をシミュレーションしてロジックエラーを特定したり、ノード間のデータフローを視覚的に確認することでテスト期間を大幅に短縮します。
OmnistudioのAI支援
Omnistudio Assistance AI Agent(Pilot)により、コンポーネント構築中にAIがベストプラクティスに基づいたガイダンスやビルドプランを提供します。UTAMによるUIテストの自動化もサポートされ、プラットフォームのアップデートによるDOM構造の変化に強い安定した自動テスト環境を提供します。
統一カタログ
サービスプロセス(入力フォーム、フロー、エージェントアクション等)を完全にパッケージ化し、異なる組織間で移行できる「ガイド付きテンプレートデプロイ」が導入されました。また、AIエージェントが顧客の製品適格性を自律的に検証する「Check Product Eligibility」アクションも追加されています。
まとめ:専門家AIと管理機能の両輪で組織を強化
Spring ’26リリースの真髄は、AIを単なるアシスタントから「特定の業界特有の痛み」を熟知した自律的な専門家へと進化させた点にあります。行政の複雑な手続きをガイドし、医師のように正確に医療文書を読み解き、銀行員のように厳格な本人確認を行い、熟練の営業担当のように複雑な構成製品の見積をまとめる。この「専門性の獲得」こそが、企業が他社と差別化を図り真の「Agentic Enterprise」へと脱皮するための最速の道筋となります。
同時に、SLA管理ではマイルストーンの一時停止や親子レコード間の可視化により正確な管理と部門間連携が実現し、アンケート機能では回答しやすいマトリクスビューや部分保存期間の最大999日への延長、カスタムCSSによりユーザビリティとブランド一貫性が向上しました。HRサービスでは統一ライセンスと機密ケース報告により管理の効率化と従業員の心理的安全性が高まりました。
これまでのSalesforceが「あらゆる知識を網羅した百科事典」だったとすれば、Spring ’26は「あなたの組織の専門領域に精通した10年選手のベテランコンサルタントが、全部門のメンバー一人ひとりの隣に配属された」ような状況です。
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本記事はSalesforce Release Notes(2025年12月29日最終更新)の公式情報を基に執筆しています。
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