Agentforce公式ガイド解説③:展開と運用の実践

Agentforce公式ガイド解説③:展開と運用の実践

本記事は、Salesforce公式『Agentforce Implementation Guide for Customers』に基づくシリーズ全6本のうちの最終章(第3章)です。
Agentforceは「構築して終わり」ではなく、「顧客接点で育てていく」プロダクトです。
公式ドキュメントの後半(Deploy/Monitor)は、チャネル展開、チーム連携、パフォーマンス分析に重点を置いています。
本記事ではそのうち「Deploy」フェーズを中心に、エージェントを顧客向けに公開するまでのプロセスを抜粋・簡潔化。
チャットチャンネル接続、公開前の検証、段階的リリースのポイントを初心者にもわかりやすく整理しました。

展開フェーズの概要

エージェントをチャットチャネルに連携するためには、Salesforce組織でいくつかの機能を有効にし、メッセージングのルーティングや担当者の準備を行う必要があります。以下では主要なステップをまとめます。

前提機能の有効化

展開を始める前に、組織で次の機能を有効にしておきます。

  • Enhanced Omni‑Channel Routing:チャットを適切な担当者やキューに割り当てる機能。
  • Messaging:Webチャットやインアプリメッセージングを提供する機能。
  • Digital Experiences:Experience Cloudサイトにチャットコンポーネントを設置するための機能。

ルーティングの設定

チャットがエージェントや担当者に届くまでの流れを設計します。

  1. サービスチャンネル – Messaging Sessionオブジェクト用のサービスチャンネルを作成し、チャットの受け皿を用意します。
  2. Routing Configuration – 優先度や割り当てモデルを決めるルーティング設定を作成します。たとえば「Least Active」モデルにすると空き時間の長い担当者へ均等に割り当てられます。
  3. キュー – エージェントが対応できない場合にチャットを受け取るキューを作成し、前述のRouting Configurationを紐付けます。

エスカレーションのカスタマイズ

ユーザーが「人間と話したい」と要求した場合のフローも重要です。Makana社の例では、エスカレーション前に「担当者をお探ししますので少々お待ちください」と案内し、担当者が見つからない場合にはケースを作成して後日フォローするようにしました。このように、事前のメッセージやケース作成処理をカスタマイズすると顧客体験が向上します。

サービスチームの準備

AIエージェントが対応できないケースを人間が引き継げるよう、サービスチームも準備します。

  • サービスリソースの追加 – 担当者を「Service Resources」として登録し、チャットを受信できるようにします。
  • プレゼンスステータス – 担当者がオンラインかオフラインかを示すステータスを作成します。これにより、在席中の担当者にのみチャットが割り当てられます。
  • サービスコンソールのカスタマイズ – Omni‑Channel SidebarやMessaging Sessionレコードページを追加し、担当者がチャットに参加しやすい画面を用意します。

チャットチャネルとサイトの作成

Webサイトにチャットを表示するには、MessagingチャネルとExperience Cloudサイトを設定します。

  1. Messagingチャネルの作成 – Setupから「Messaging for In‑App and Web」チャネルを作成し、ルーティング先として前述のキューやフローを指定します。プレチャットフォームの項目(氏名やメールアドレス)とフローの変数をマッピングすることで、顧客情報をエージェントに渡せるようにします。
  2. Experience Cloudサイトの構築 – テンプレートを利用してカスタマー向けサイトを作成し、フッターにチャットコンポーネントを追加します。サイトドメインをCORS許可リストに追加するのを忘れないでください。

テストと本番展開

サイトを公開したら、担当者が不在の場合と在席の場合の両方でチャットをテストします。担当者が不在のケースではエージェントがケースを作成し、在席の場合は担当者のOmni‑Channel Sidebarにチャットが割り当てられることを確認します。ステージング環境で動作を確認した後、メタデータをパッケージ化して本番環境にデプロイします。

モニタリングフェーズの概要

エージェントは公開後も継続的な改善が必要です。SalesforceではAgentforce AnalyticsAgentforce Optimizationというツールを使って会話の品質を評価できます。

Audit and Feedbackの有効化

生成AIの出力やユーザーのフィードバックを収集するため、Audit and Feedback機能を有効にします。これにより、回答やフィードバックがData Cloudに保存され、後から分析できます。

AnalyticsとOptimizationの使い分け

  • Agentforce Analytics – セッション全体を分析するダッシュボードです。セッション数、品質スコア、エスカレーション率などの指標を確認できます。Session Tracingを有効にし、ダッシュボードライブラリをインストールすることで利用できます。
  • Agentforce Optimization – セッションを細かな「モーメント」に分割し、類似したターンをまとめて品質分析を行うツールです。Optimizationを使うことで、特定の質問タイプやトピックに絞った課題を抽出できます。

監視戦略のポイント

ガイドでは、運用後の監視を3段階に分けて考えることを推奨しています。

  1. ポストローンチ – 公開直後はデータ収集やダッシュボードの確認を行い、基礎的な指標が期待通りかチェックします。
  2. モーメントモニタリング – 一定期間データを蓄積したら、Optimizationで低品質なモーメントを特定し、原因となるトピックやプロンプトを改善します。
  3. 根本原因分析 – さらに多くのデータを集めたら、クラスタリングされたモーメントを深掘りし、問題の根本原因を特定します。

日次・週次・月次でKPIをチェックし、改善を続けることが成功の鍵です。

よくある質問とヒント

初心者が展開とモニタリングを進める際に抱きがちな疑問とアドバイスをまとめました。

Q1. エージェントを公開すると人間の担当者は不要になりますか?
いいえ、AIエージェントは単純な質問や情報検索を効率化しますが、複雑な案件やクレーム処理には人間の判断が必要です。エージェントは担当者の負荷を減らし、より高度な対応に集中できるようにする補助役です。

Q2. どの指標を見ればエージェントの効果が分かりますか?
Agentforce Analyticsでは品質スコア、エスカレーション率、ディフレクション率(ユーザーが途中で会話を終えた割合)などが確認できます。品質スコアが低いモーメントやエスカレーション率が高いトピックは改善対象と考えましょう。

Q3. チャット導入には何が必要ですか?
Enhanced Omni‑Channel Routing、Messaging、Digital Experiencesの有効化に加え、サービスチームの準備とサイト構築が必要です。設定はノーコードで行える部分が多いですが、初期構築やデプロイはSalesforce管理者の協力を得ると安心です。

Q4. テストフェーズと展開後のモニタリングはどう違いますか?
テストは公開前に設定やフローが期待通りに動くか確認する工程であり、想定シナリオを使ってエージェントの動作を検証します。一方、モニタリングは公開後に実際の顧客との会話を分析し、品質指標の変化を継続的に追跡する作業です。テストで見つけられなかったユースケースやデータ不足に気付くためにも、モニタリングで実績データを蓄積し改善サイクルを回すことが重要です。

プロセスやフローを図解して共有するとチーム全体の理解が深まり、導入が円滑に進みます。展開とモニタリングのステップを時系列でまとめたチャートを作成し、進捗確認に活用してみてください。

まとめと次のステップ

本記事は、公式ガイド後半「Deploy」フェーズの要点を中心にまとめました。
エージェントを顧客接点へ展開し、実際のデータで効果を測定する工程を学びました。
しかし、運用を通じて得た知見を次の企画に活かすことこそ、Agentforceの真価です。
ここで一度、公式ガイドの最初のフェーズ「Ideate」へ戻り、戦略を再構築してみましょう。

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