Agentforce公式ガイド実務編①:AI導入計画と要件設計

Agentforce公式ガイド実務編①:AI導入計画と要件設計

公式ガイド第1章「Ideate」では、AI導入における価値設計とリスクフレームワーク(People/Business/Technology/Data)を軸に据えています。
本記事では、その90ページの原文から実務者が押さえるべき要件定義・KPI設計・ガバナンス設計のエッセンスを抽出しました。
現場でAIプロジェクトを主導する方向けに、抽象的な理念ではなく、実際の要件書に落とせる水準の思考手順を紹介します。

Agentforceの概要と仕組み

Agentforceは、大規模言語モデル(LLM)を活用したSalesforceネイティブのAIエージェントフレームワークです。エージェントはユーザーからの自然言語を理解し、適切なアクションを自律的に実行します。安全性を担保するため、Einstein Trust Layerがモデル出力をフィルタリングし、Salesforceの権限モデルに則ってタスクを実行します。

開発ライフサイクル

ガイドではエージェント開発を5つのステージに分けています:Ideate(企画)→Build(構築)→Test(テスト)→Deploy(展開)→Monitor(監視)。本記事では最初のIdeateフェーズを深掘りし、次のステージにスムーズに進むための基盤づくりを解説します。

ステップ1:プロジェクト準備と環境確認

このステップでは、エージェント構築に必要なSalesforce機能の確認と、プロジェクトを支えるチーム体制の整備方法を解説します。予算やライセンスの手当て、担当者の選出をここで済ませておくことで、以降のステージがスムーズに進みます。

組織とライセンスのチェック

エージェントを構築するには、Salesforce組織に以下の機能が有効である必要があります。

  • Lightning Experience
  • Einstein Generative AI
  • Data Cloud

加えて、使用するチャネル(Web ChatやSlackなど)に応じてMessagingやDigital Experiencesのライセンスが必要です。パイロット段階ではSalesforce Developer Edition(無料)にサインアップし、必要な機能を検証することを推奨します。

チーム体制の整備

AIプロジェクトは複数部門の協力が不可欠です。ガイドでは次のような役割分担が示されています。

役割主な責任
プロジェクトオーナービジネス目標の設定、予算確保、ROI管理
Admin/開発者Salesforce設定、エージェント構築、フロー設計
コンテンツ管理者FAQやナレッジ記事の整備、Data Cloudへのデータ登録
コンプライアンス/法務担当リスク評価とガードレールの策定
サポート担当ユースケース候補の洗い出し、テスト協力

ステップ2:ユースケースの選定と評価

AIエージェントは万能ではなく、適切なユースケースに適用することで高い効果を発揮します。ガイドでは5つの観点(価値・作業量・意思決定・リスク・データ)で評価することを推奨しており、以下に整理しました。

評価項目評価内容
価値KPIは何か、どれだけ効率化・顧客満足度向上につながるかを定量的に評価します。
作業量生成AIで自動化できる範囲を見極め、複数のシステムを横断する処理が必要か確認します。
意思決定完全自動化可能か、人間の承認が必要かを区別します。
リスク機密情報の漏えいや誤回答に起因するコンプライアンスリスクを洗い出します。
データナレッジ記事やFAQがどの程度整備されているか、欠落がないかを確認します。

この評価表はユースケース検討時に利用できるテンプレートの一例です。自社の重要指標やリスク項目に合わせてカスタマイズし、関係者と共有すると意思決定がしやすくなります。

Makana社の例:段階的なスコープ設定

医療機器メーカーMakana Medical Devicesは、「General FAQ」と「Case Management」の2つのユースケースを段階的に実装することで、早期に成果を出しつつ、継続的にスコープを拡大しています。

  • フェーズ1:General FAQ – よくある質問への回答に特化。データが整っており、リスクが低い領域から着手。
  • フェーズ2:Case Management – 顧客のメールアドレスを取得し、コンタクトを検索して既存ケースを表示する。Flowによるデータ取得や分岐処理を追加します。

このようにビジネス価値が高く、実装コストが低いものから順にリリースするのが成功のポイントです。

ステップ3:リスク評価とガードレール策定

エージェント導入のリスクはPeople・Business・Technology・Dataの4カテゴリに分類されます。実際の運用では以下のような対策を考慮します。

  • 生成AIの出力監視 – ガイドレールとしてNGワードリストを設定したり、特定の質問を人間に引き継ぐなどのルールを設ける。
  • コンプライアンスチェック – 個人情報の取り扱いについて法務・セキュリティ部門と協働し、FAQデータやナレッジ記事を定期的に審査する。
  • 異常時の対応フロー – エージェントが回答できない場合や誤った案内をした場合に、人間が速やかに介入できるエスカレーション手順を設計する。

次の表は、各カテゴリで想定されるリスクと代表的な軽減策の例です。プロジェクト開始時にこうした項目を整理しておくと、ガバナンスの議論が進めやすくなります。

カテゴリ想定リスク主な軽減策
Peopleエージェントが誤った指示や不適切な発言をするNGワードリストの設定、曖昧な質問は人間に転送するプロンプト指示
Business誤回答により誤請求や契約違反が発生するケース管理と照合するフローを組み込み、人間の承認が必要な処理を明確化
Technologyサービス障害や接続エラーにより応答できなくなる障害時のフェイルオーバー手順を準備し、監視アラートを設定
Data個人情報の漏えいや古い情報による誤案内データソースを定期的に更新し、機密情報をマスクする仕組みを導入

このようなリスク評価シートを作成し、各カテゴリの想定リスク・影響度・軽減策を一覧化しておくとよいでしょう。

ステップ4:データ準備とナレッジ整備

AIエージェントは、正確なデータとナレッジに基づいて回答します。以下の作業を進めましょう。

  1. ナレッジ記事の収集 – FAQ、製品マニュアル、トラブルシューティングガイドなどの資料を集めます。
  2. データフォーマットの統一 – PDF、Word、HTMLなど形式が混在している場合は、Data Cloudに取り込みやすい形式に整えます。
  3. 分類とタグ付け – データライブラリ内でカテゴリ分けやメタデータ付与を行い、特定の質問に迅速にアクセスできるようにします。
  4. 更新フローの確立 – 新しい製品やキャンペーン情報が追加された場合、ナレッジベースをすぐに更新できるよう責任者と手順を決めておきます。

よくある課題と対策

Ideateフェーズを進める中で遭遇しがちな課題と、その対策を以下に整理しました。

課題ありがちな状況対策
ユースケースの範囲が広すぎる全ての問い合わせをAIに任せようとするあまり、対象範囲が膨らみ、プロトタイプが完成しないまずはFAQやケース状況確認などビジネス価値が高くリスクが低いものに絞り、段階的に拡張する
リスク評価が曖昧People・Business・Technology・Dataの観点で洗い出さず、後からコンプライアンス部門に指摘される評価シートを作成し、各カテゴリの想定リスクと軽減策を文書化してレビューに備える
関係部門との連携不足サポート部門や法務が企画に参加しておらず、ナレッジ整備やルール設計が滞る企画段階から各部門を巻き込み、定期的なレビュー会議を設定する

これらの課題を早期に認識し、対策を講じることでプロジェクトの進行がスムーズになります。

ステップ5:プロンプト設計とトピック・アクション検討

ユースケースが定まったら、エージェントがどのように会話を進めるべきかを設計します。

  • トピックの定義 – ユースケースごとに「General FAQ」「Case Management」などのトピックを作成し、それぞれで扱う質問範囲を明記します。
  • アクションの洗い出し – Salesforce内で実行するフローや外部API呼び出しなど、エージェントが行う操作をリストアップします。単純な検索は「Answer Questions with Knowledge」、レコード更新は「Create/Update Record」など標準アクションで賄えますが、複雑な処理はFlowやApexを用いたCustom Actionが必要になります。
  • プロンプトのカスタマイズ – エージェントのシステムメッセージ(挨拶やエラーメッセージ)やトピックのプロンプトを自社のブランドトーンに合わせて編集します。

これらの設計作業は、後の構築フェーズで大きな手戻りを防ぐために重要です。プロトタイプを早めに作成し、ステークホルダーと定期的にレビューすることをおすすめします。

まとめと次のステップ

本記事では、公式ガイドのIdeate(企画)フェーズから、AI導入の要件定義とリスクマネジメント設計の要点を抽出しました。
これでAI導入の“戦略”は整いました。次は、戦略を現場で具現化する「Build/Test(構築・検証)」へ進みます。
公式ガイド第2〜3章をもとに、Agentforceを動かしながら品質を担保するための実践プロセスを解説します。

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