Salesforceが公式に公開した『Agentforce Implementation Guide for Customers(全90ページ)』は、AIエージェントの構築から運用までを体系的に解説した決定版ドキュメントです。
しかし、内容が膨大で「どこから手を付ければいいかわからない」という声も多いのが実情。
本記事では、その中から「Ideate(企画)」フェーズの要点を抽出し、導入目的の整理・ガードレール設計・リスク管理の基礎をわかりやすくまとめました。
Agentforce導入をこれから始める方が、確実に最初の一歩を踏み出せるよう設計された入門編です。
Agentforceとは何か?
Agentforceで構築されるエージェントは「目標指向の自律型AIアシスタント」です。ユーザーや顧客からの自然言語の問い合わせを理解し、Salesforceの権限モデルやセキュリティを守りながらタスクを実行します。例えば、商品保証に関する質問に答えたり、ケースを作成して担当者に引き継いだりと、顧客サポートを幅広く支援できます。
開発ライフサイクルの全体像
エージェント開発は次の5つのステージで進みます:
- Ideate(企画):ビジネス課題を特定し、AIエージェントのユースケースを検討します。
- Build(構築):テンプレートからエージェントを作成し、必要なデータとアクションを追加します。
- Test(テスト):手動テストやバッチテストでエージェントの精度・安全性を検証します。
- Deploy(展開):チャネル(Webチャットなど)に接続し、顧客へ公開します。
- Monitor(監視):運用後のパフォーマンスを分析し、継続的に改善します。
本記事ではこの中のIdeateステージを中心に説明します。構築以降のステージは次の記事で扱います。
ユースケースを見つける:まずは目的を明確に
AIエージェントを活用するためには、「どんな課題を解決したいのか」を明確にすることが第一歩です。架空の医療機器メーカーMakana Medical Devicesは、顧客サポートの改善を目的にFAQ対応とケース管理という二つのユースケースを選びました。
評価のための5つの質問
ガイドではユースケースを評価する際、次の5つの質問を考えることを推奨しています。以下の表にポイントをまとめました。
| 評価項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 価値 | 顧客満足度の向上、応答時間の短縮、コスト削減など、具体的なメリットを見積もる |
| 作業量 | 会話型の応答だけで解決できるか、複数システムを横断する処理が必要か判断する |
| 意思決定 | 完全自動化できるか、人間の承認が必要かを確認する |
| リスク | 誤回答やデータ漏えいの可能性を洗い出し、適切なガードレールを設ける |
| データ | ナレッジ記事やFAQが整備されているか、情報が最新かをチェックする |
これらの観点で自社の顧客対応業務を見直すと、AIエージェントの導入効果が大きい領域とそうでない領域が見えてきます。最初は影響が大きく実現しやすいユースケースから着手するのがおすすめです。
ビジネス価値を具体化しよう
ユースケースを選んだら、どのような効果が得られるかを数値で示すと社内の理解が進みます。例えばMakana社では「FAQへの自動回答でサポート件数の40%を自己解決に誘導できる」「ケース状況確認の問い合わせにかかる平均時間を半分に短縮できる」といった目標を設定しました。ビジネス価値を見える化することで、AI導入の投資対効果が明確になります。
技術要件とSalesforce環境
AIエージェントを構築するには、Salesforceの以下の機能が必要です。
- Lightning Experience:エージェントを設定・管理するUI。
- Einstein Generative AI:LLMによる回答生成機能。
- Data Cloud:ナレッジ記事やFAQなど、AIが参照するデータを安全に格納する基盤。
また、チャネル(Web Chat、Slack、SMSなど)ごとに個別のライセンスが必要となります。導入前にプロジェクトメンバーとライセンスや料金を確認しておきましょう。
リスク管理:AIを安全に活用するために
AIエージェント導入にはリスクも伴います。ガイドでは、リスクを以下の4カテゴリで整理しています。
- People(人):生成AIが誤った指示や不適切な表現を返すリスク。
- Business(ビジネス):誤った提案がビジネスに悪影響を与えるリスク。
- Technology(技術):システムやインフラの不具合によりエージェントが動作しないリスク。
- Data(データ):個人情報の漏えいや不適切なデータ利用に関するリスク。
リスクを事前に洗い出し、適切なガードレールを設けることで、安全にAIを活用できます。例えば、回答の根拠となるナレッジ記事を厳選したり、人間の確認が必要な場合にはエージェントが担当者に引き継ぐように設定したりすることが挙げられます。実際に、保証期間に関する質問へ誤った情報を返してしまい、顧客が混乱したケースも報告されています。こうした失敗を防ぐために、特定の質問には最新のナレッジ記事へのリンクを付けて回答を補強したり、曖昧な表現を含む問い合わせは自動的に担当者へ転送するなど、具体的なガードレールを設計しましょう。
よくある質問と導入のポイント
初めてAgentforceを検討する方から寄せられる質問と、そのポイントをまとめました。
Q1. 導入にはどれくらいの期間が必要ですか?
企画フェーズでユースケースやリスク評価を行い、簡単なプロトタイプを作るまでなら数週間で可能です。既にSalesforceでナレッジやデータが整備されていれば、構築フェーズはさらに短縮できます。
Q2. 既存のチャットボットとどう違いますか?
Agentforceは生成AIを利用した柔軟な会話理解と、Salesforceデータへの直接アクセスが特徴です。一般的なFAQボットのようにルールベースで動くのではなく、LLMが自然な応答を生成しつつ権限やガードレールを遵守します。
Q3. どの程度のデータが必要ですか?
FAQやマニュアルといったナレッジ記事はもちろん、顧客情報や製品情報などの基本データが整備されていることが望ましいです。不完全なデータでも開始できますが、データが増えるほどAIの回答精度が向上します。
図解やフロー図を作成して企画プロセスを可視化することも、関係者の理解を助けるポイントです。Ideateステージ全体を1枚の図にして、ユースケース評価やリスク管理の位置づけを示すと良いでしょう。
スタートアップガイド:導入準備のステップ
最後に、Agentforce導入準備の流れを簡単にまとめます。
- サンドボックス環境の準備:必要なライセンスを確認し、開発用のSalesforce組織を用意します。
- チーム構成の明確化:プロジェクトマネージャー、セールス/サポート担当者、AI倫理担当者など役割を決めます。
- ユースケース選定:前述の5つの質問を使って候補を評価し、優先度を付けます。
- データ整備:回答の根拠となるナレッジ記事やFAQを集め、Data Cloudに登録できるよう形式を整えます。
- リスクとガードレールの策定:想定されるリスクを洗い出し、必要な安全策を決めます。
これらを終えれば、次のステージである構築フェーズに進む準備が整います。
まとめと次のステップ
本記事は、Salesforce公式『Agentforce Implementation Guide for Customers(全90ページ)』のIdeate(企画)フェーズを要約した内容でした。
ここでは「AIを導入する目的」と「どんな価値を生み出すのか」を整理し、Agentforceを導入するための考え方を学びました。
次は、企画で描いた構想を実際に形にする「Build/Test(構築と検証)」フェーズへ。
公式ガイドの内容をもとに、AIエージェントを自分の環境で動かす実践ステップを学びましょう。
次に進む
- 第2章:構築・テストフェーズ(初学者向け)へ – Ideateで描いた構想を実際に形にする実践編。
- 第1章:企画フェーズ(実務担当者向け)へ – 要件定義・リスク設計・KPI整理をさらに深掘りする。
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